フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
しゃくに障る。
 
普段ならこんなわかりやすい挑発には乗らないが、今は自制が効かない。楓のことが気になって仕方がなかった。

「太田さん。社内恋愛は自由ですが、相手があることですし、口は慎んだ方がいいですよ。だいたい藤嶋さんが飲み会が苦手だというのを忘れたんですか? それなのにどうして……」

「抜けがけするなって感じ?」
 
じっと見られてぐっと詰まる。睨むと、こちらがなにか言う前に口を開いた。

「言っとくけど、彼女が可愛いってはじめに気がついたのは俺だからね? 一番はじめに、アタックチャンスの権利があると思うんだよね」
 
その言葉に、ハッとする。
 
アタックチャンスの順番はともかくとして、確かにそうだと思ったからだ。
 
太田は倫が楓をよく知る前から彼女をいいと言っていた。楓を自分のファンだと勘違いして興味を持ち、実は可愛いと言ったのだ。
 
早い遅いの話ではなく、もし自分が彼の立場だったとしても同じようには考えなかっただろう。楓のことをよく知らない状況で同じ状況に置かれたら……ただうっとおしく思っただけ。
 
だとしたら、彼女には自分より太田の方が合うのでは?
 
そんな考えてが頭に浮かび、急に自分がくだらない人間だと突きつけられたような気分になる。
 
いやそれははじめからわかっていたけれど。

「そいや王子知ってる? 子リスちゃんって案外社内で知られてるんだよ。仕事が丁寧だし、経理関係のこと聞くと丁寧に教えてくれるって。早くしないと誰かに取られちゃうからね。今日は勝負をかけちゃうよー」
 
ジリジリと胸が焼けるような心地がする。彼女に手を出すなと言いたくて、言えなくて、奥歯を噛み締めた。
 
代わりに嫌味のひとつも言いたくなる。

「……太田さんは、思ったこと全部そのまま口に出してる感じですか?」

「そだねー、だってその方が人生楽しいじゃん。ときどき、なにアイツ? みたいな目で見られることもあるけど、気にしないよ。無理して自分の気持ちに嘘つきたくないからね」
 
……どうして自分がこんなにも彼を疎ましく思っていたのかがわかったような気がした。
 
彼が、自分にはできないことをあっさりやってのけているからだ。
 
他人の目は気にせず、本来の自分の思うままに、好きなように生きる。
 
たとえ受け入れられなくても相手を無駄に敵対視せず、いいところはそのまま受け入れる。
 
同じようなことを楓に対しても感じた。だからこそ倫は彼女に惹かれたのだ。

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