フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

勇気を出して

昼休みに急遽決まった飲み会は、太田チョイスの創作料理居酒屋で開催された。
 
適度にガヤガヤとした店内のテーブル席に、山口と太田と向かい合わせに座る楓は、ノンアルコールサワーを手にしている。酔っ払ってはいないけれど、胸がふわふわとした嬉しい気持ちでいっぱいだ。
 
はじめはやっぱりドキドキした。
 
山口とは新年会などで一緒に飲み会に参加したことはある。でもそういう時の楓は、ひたらすら目立たないようにしていたから、周囲との会話も必要最小限だった。けれど今日はそれでは意味がない。
 
気の利いたことを言える自信はなかったけれど、会話には困らなかった。山口と太田から適度に飛んでくる質問に、答えたりしているうちに、緊張も心もほぐれていった。
 
ビール片手に山口がニコニコしている。

「楓ちゃんって、やっぱり話してみると面白いよね。前からなんとなくはわかってたけど」

「ズレてるって昔からよく言われていました」

「ズレてるって感じじゃないよ。言葉のチョイスが独特だけど。私は好きだなーこの感じ」
 
飲み会開始早々に、山口は楓ちゃん呼びになり、それも楓の気持ちをほぐした。

「俺も、子リスちゃんのテンポには癒される」
 
太田は子リスちゃん呼びである。なぜ子リスなのかという謎は解け、そのまま定着した。

「そう言ってもらえて、ちょっとホッとしました。結構、コンプレックスで今日も飲みにきていいのかと……」

「そんな感じだよねー。だけどわかる! 私も昔は結構苦労したなー。学生時代ってちょっと違うだけで浮いたりするんだよね」

「え、山口さんも?」
 
意外な話だった。

「したした、私、見た目がおとなしく見えるみたいで、イメージと違うとか口が悪いとか気が強いとか、自分からしたらそう?って感じだけど。途中からはまあいいやって開き直ってたけどね。それがさらにむかつくって言われて高校までは友だちできなかったな」
「わかるぅ〜ぐっちゃんって女子を敵に回しそうなタイプだよね〜」
 
カシスオレンジ片手に太田はうんうんと頷いた。

「む、なによ。向こうが勝手に突っかかってくるだけだもん」

「だけどさー」

「私は……!」
 
思わず楓は声をあげた。

「私は好きです。山口さんのギャップ!」

「ほ?」
 
山口が嬉しそうに笑う。

「むしろそこが好きっていうか、ファンっていうか」

「ほうほうほう!」
 
嬉しそうにする山口の隣で、太田が口を尖らせる。

「えー、子リスちゃん、それは裏切り。俺のファンだったくせに〜」

「は? 私が?」

「うるさい、太田。そんなわけないでしょ」
 
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