フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
山口が太田を一喝し、楓に向き直る。

「嬉しいなー、そう言ってくれて」

「開き直ったってところも、すごいなって思います。強いですね。私も学生の時はちょっと浮いてて……でもなかなかそこまではできなくて、こっそり存在を消してました」

「全人類に好かれるなんてはじめから無理なんだって、べつに迷惑をかけてるわけじゃないのに嫌がられるのって、ただ相性が悪いだけだし。その分同じだけ好きだって言ってくれる人がどこかにいる、私はそう思ってるんだ。だって世界は広いもん」
 
世界は広い。
 
好きだって言ってくれる人は必ずいる。
 
山口の言葉は、すとんと楓の中に収まった。

「だからね、楓ちゃんも自信持って」

「はい」
 
その言葉を、楓はこっそり噛み締めた。
 
勇気を出して来てよかったと心底思う。
 
楓が見ていた現実の世界は、すごく狭い狭い部分、ほんの一部にすぎなかった。本当は、もっとずっと世界は広くて、もし今目の前に、わかってくれる人がいなくても、どこかには必ずいる。
 
今はそう信じられる。
 
考えてみれば、SNSの中には、楓の物語を楽しみしてくれている人たちがいた。
 
所詮はネット上のつながりだと思っていたけれど、その向こう側にいるのは、現実の人たちなのだ。
 
たっぷり二時間話をして、お開きになり三人は店を出る。相変わらず寒いけれど、心はほかほかとしていた。

「あ、雪止んだね。楓ちゃん、ちょっとは元気になった?」

「はい、ありがとうございました」
 
白い息を吐いて楓は頭を下げる。
 
勇気を出して来てよかったと心底思う。無理をするつもりはないけれど、これからはもう少し行動を変えてみようという気持ちになっていた。

「だとしたら、よかったよ」

「そいや、子リスちゃんがなにに悩んでるかは聞いてないね。なにがあったか話してごらん」
 
思い出したように太田が言う。
 
すかさずその脇腹を山口が突いた。

「元気になったんだからもういいじゃん。無理やり聞き出すのはよくないよ。話せないことだってあるんだから」
 
山口が制するのを聞きながら、楓は笑みを浮かべた。

「し、失恋しちゃって……」
 
すべてを話すつもりはないけれどこのくらいはいいだろう。べつの話題に終始していたけれど、そもそも今日はこのためにきた。
 
そしてその失恋の傷も、さっきまでとは少し違って思えた。
 
伊東との出来事があったから、勇気を出せた自分がいる。他の人から見たら黒歴史に分類されるような出来事も、楓にとっては大事な大事な第一歩だった。
 
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