フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
胸にあるのは、あの日の楓の言葉だった。

『私は素顔の伊東さんの方が好きです』
 
誰にも見せられないと思っていた、見せる価値もないと思っていた、そのままの倫を好きだと言ってくれた人がいる。
 
その事実が、倫の世界を大きく変えた?
 
いや違うと倫は思う。変わったのは世界ではなく。自分自身の心持ちだ。
 
楓を知り、彼女の言葉を聞いて、澄んだ目で見る世界を知って、自分がいかに偏見に満ちた考えで周りを見ていたかを思い知った。
 
——会いたいと強く思う。
 
自分には彼女が必要だ。
 
このまま彼女と距離を置いても、通り過ぎていった他の別れと同じになど絶対にできない。
 
伝えたい、と切実に思う。
 
こんなにも大切に思っていることを。
 
もしかしたら。
 
いや、確実に、彼女にとっては迷惑だろう。倫とのことは思い出したくない黒歴史に分類されているかもしれない。
 
それでも誠心誠意謝って、今の自分の気持ちを伝えたい。
 
今彼女が頼るのが、太田だとしても……。
 
無意識のうちに立ち上がりもう一度時計を確認すると、時刻は八時半。この時間ならば、まだ居酒屋にいるかもしれない。
 
薄暗い店内で太田とふたり親しげに話をする楓の姿が頭に浮かんだ。
 
と同時に、胸がドクンと大きく揺れる。ほとんど駆け出すようにして、倫はフロアを出た。
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