フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「なに今さら驚いてるんだ。自分だってさんざん言ってたじゃないか。俺のことカッコいいとかドキドキするとか」
　
それはまだ彼を好きだと自覚する前の話であくまでも擬似の恋心のつもりだった。けれど確かに言っていた。

「俺はすでに楓を好きになってたのに、擬似恋愛だと釘を刺されながら、そういう言葉をガンガン投げられて、どんな気持ちだったと思う？　これからは俺も好きなだけ言わせてもらう」

「ええ……そんな……」
　
どんな理論？と思うけれど、ウエムラ商会ナンバーワンの彼に、口では敵いそうにない。
　
敵いそうにないけれど、このままでは身がもちそうにない。
　
などと考えている楓を見つめたまま、伊東がふっと笑った。

「あの日のやり直ししてもいい？」
　
あの日のやり直し。
　
あのキスのことだと気がついて、耳まで熱くなっていく。
　
そんなことされたら今度こそ、溶けてなくなるのは確実だ。けれどじっと見つめられて拒めるはずがなかった。
　
いつのまにか大きくなった彼への想いが、楓の胸をいっぱいに満たしている。
　
こんな風になるなんて数カ月前なら考えられなかったけれど、この人とキスしたいと素直に思う。
　
背筋がふにゃふにゃになるのを感じながら、こくこくと頷くと「ありがとう」と微笑まれた。
　
優しくメガネが外されて、途端に視界がぼんやりとする。ゆっくりと近づく彼だけがはっきりと見えた。まるで世界には彼しか存在しないみたい、そう思った瞬間、優しく唇にキスされた。
　
目を閉じて、柔らかな感触だけを感じていると、それはしっかりと触れ合ったあと離れていく。ゆっくりと目を開けると、まだ彼の視線はすぐそばにある。
　
額と額をぴたりと合わせて、彼は目を細めて囁いた。

「ずっと、こうやって近くで見てみたかったんだ。楓の目って、きれいだよな」
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