フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「俺もカッコ悪いとは思ったんだけど咄嗟に思いつかなかったんだよ。楓にとっては人に聞かれたくない話だろうし、かといってふたりきりは怖いだろうし」
 
苦肉の策でこのBARというわけか。
 
あの日突然逃げ出した楓に怒っているどころか、最大限の配慮をしながらも謝罪を試みた彼の気持ちがじわりじわりと楓の中に広がった。
 
口は悪い裏表ありの王子さま。けれど、努力家で優しい人。なによりありのままの楓を受け止めて好きだと言ってくれる人。
 
その人が、自分の言葉を待っている。
 
キャパオーバーはそうだけど、それよりも伝えたいと強く思う。
 
見つめると、熱のこもった眼差しが返ってくる。

「えーっと……私も……私も……伊東さんのことが、す、好きです。好きになっちゃいました」
 
言い終えると同時に腕を引かれて、そのまま強く抱きしめられる。

「うん、俺も。大好きだ」
 
耳もとでそう囁かれて、ばふっと頭から煙が出た。このまま溶けてなくなってしまいそうだ。

「私、もう、無理かも……」
 
呟くと、くっくっ笑い身体を少し離してくれた。

「お子ちゃまめ」
 
それでも距離は近すぎで、楓は思わず両手で顔を覆う。黒縁メガネがちょっとズレる。

「大丈夫か?」

「……じゃないです」
 
自分としてはもう無理だ。
 
指の間からチラリと見ると、彼はにっこりと微笑んでいる。
 
再び指をピシャリと閉じた。

「なにそれなにそれなにそれ!」

「は? なにが」

「だって伊東さん、キャラ違いませんか? そんな優しそうに……」

「失礼なやつだな。俺にだって優しいところはある」

「でもそんなニコニコして」
 
確かに彼は優しいが、そういうわかりやすい優しさじゃなかったはず。
 
そんな、まるで少女漫画のヒーローみたいな……!

「いやいや、ニコニコしてるのは楓のせいだ」

「は? 私?」

「そんな真っ赤になって恥ずかしがって、可愛すぎるだろう。俺がこうなるのも仕方ない」

「はぁ⁉︎ ななななななに言って……!」
 
おかしくなったんじゃないかと思い、手を外して彼を見る。
 
からかっているのだろうと疑うが、彼はいたって真面目だった。

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