フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
連れて行かれたスペイン料理のこじゃれた居酒屋で、伊東はまず会の冒頭で楓をメンバーに紹介した。

『とても頼りになる経理課の藤嶋さんです。彼女なしには取引開始の成功はありませんでした。とても感謝しています』
 
営業部の皆さまは、楓に優しかった。
 
すみっこで壁にへばりつき烏龍茶を飲む楓の隣に、入れ替わり立ち代わりやってきて、あれこれと話しかけてくれる。
 
知り合いのいない楓がポツンすることがないようにという配慮だろう。しかも楓が見る限り、皆気のいい人たちで、なんだこいつと思っている風ではなかった。
 
さすがは社交性と気遣いのプロフェッショナルたち。
 
けれどそれも楓にとってはありがた迷惑だった。
 
飲み会に参加せざるを得ないなら、すみっこで気配を消している方が一億万倍まし。よく知らない人と、婚活パーティーばりに入れ替わり話をするなんてもってのほか。

「はい」と「そうですね……」の繰り返しで、ろくなことを言えていないのに、HPは減るばかりだった。
 
そんなこんなで瀕死状態だったものだから、烏龍茶と間違えて運ばれてきたウーロンハイを気づかずに飲んでしまい、ますますフラフラになってしまった。
 
そして飲み会終盤。
 
営業さんたちとのお見合いが途切れて、少しふわふわとした気分でいると伊東が話しかけてきた。

「藤嶋さん、今日はありがとうございました……あれ? ちょっと酔ってます? お水をもらってきましょうか」
 
相変わらず完璧な笑顔と、そつのない振る舞いだ。

「経理課と違って営業部(うち)営業部(うち)のメンバーは騒がしいから、疲れたでしょう」

「いえ……まぁ、大丈夫です」

「僕のわがままに付き合ってくれてありがとうございます。少しはお礼になっていればいいですが。……ってまぁ、僕のお金じゃないんですけどね」
 
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