フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
少し前に、楓が完成させてアップした『リン王子とメイドの恋』に関する通知だ。
はじめての恋が無事に成就し執筆は順調に進んだ。リン王子もカエデのことを好きになり、ふたりはハッピーエンドを迎えたのだ。
嫌々書き始めたのが嘘のように楽しくて、楓自身、リン王子とカエデが大好きになった。
アップすると同時に、一躍大人気作品に! ……とまではいかないけれど楓の作品の中では今までで一番読まれている。
面白かったという感想がたくさんついたのが嬉しかった。
「評判いいみたいじゃないか。モデルがよかったんだな」
「書き手がいいんですよーだ」
そんなことを言い合い笑い合う。
「続編を書いてください」
「え?」
「って、いう感想が来てたけど書くの?」
「いや〜どうかな」
確かに主役のふたりはお気に入りで、楓自身もこれからのふたりを見てみたい。
でも書ける自信がなかった。
なにせ楓には、ここから先の経験がない。
せっかくの自分のお気に入りの物語は、最高の出来と思うところで終わらせたいような気がした。
「ここから先は未知の世界だからなー……」
考えながら呟くと、伊東が肩をすくめた。
「そんなのすぐに経験するだろ」
そしてこちらをじっと見つめる。
会社での彼とは違う熱っぽい視線に、楓の頬が熱くなった。
「楓なら書けるよ『リン王子とメイドの恋〜恋人編〜』」
これからはじまる恋人としてのふたりを予感させる彼の言葉に、楓の胸が高鳴った。
「はい……」
ドキドキしながら答えると、彼は意味深に笑いながら続ける。
「その次は婚約編」
「え?」
「その次の次は新婚編」
「ええ⁉︎」
声をあげて目を丸くしていると、彼はぶはっと噴き出して肩を揺らして笑い出した。
「もう! からかわないでくださいよ」
頬を膨らませて彼を睨む。
コーヒーを飲み終えた伊東が、伝票を掴んで立ち上がった。
「そろそろ行こうか、映画の時間に間に合わなくなる」
カランカランという鈴の音と、「ありがとうございました〜!」という店員の声に見送られて外に出る。
日が暮れた夜の街を彼は大通りに向かって歩き出した。並んで歩くのが恥ずかしくて、咄嗟に楓は少し後ろに下がろうとする。
けれどそんなことは許さないとばかりに、大きな手に手を取られてしまった。
しかもしかも、よりによって、指を絡ませるタイプの恋人繋ぎ……!
これが噂の恋人繋ぎ。一生経験経験することはないと思っていた恋人繋ぎ。
その部分を凝視して真っ赤になり、もはや他のことは考えられなくなってしまった楓は、伊東が微笑みながら呟いたのに気がつかなかった。
「俺は、からかったつもりはないけどな」
手を繋いで歩くふたりを、ビルの合間から覗く控えめな都会の星がキラキラと照らしていた。
了
はじめての恋が無事に成就し執筆は順調に進んだ。リン王子もカエデのことを好きになり、ふたりはハッピーエンドを迎えたのだ。
嫌々書き始めたのが嘘のように楽しくて、楓自身、リン王子とカエデが大好きになった。
アップすると同時に、一躍大人気作品に! ……とまではいかないけれど楓の作品の中では今までで一番読まれている。
面白かったという感想がたくさんついたのが嬉しかった。
「評判いいみたいじゃないか。モデルがよかったんだな」
「書き手がいいんですよーだ」
そんなことを言い合い笑い合う。
「続編を書いてください」
「え?」
「って、いう感想が来てたけど書くの?」
「いや〜どうかな」
確かに主役のふたりはお気に入りで、楓自身もこれからのふたりを見てみたい。
でも書ける自信がなかった。
なにせ楓には、ここから先の経験がない。
せっかくの自分のお気に入りの物語は、最高の出来と思うところで終わらせたいような気がした。
「ここから先は未知の世界だからなー……」
考えながら呟くと、伊東が肩をすくめた。
「そんなのすぐに経験するだろ」
そしてこちらをじっと見つめる。
会社での彼とは違う熱っぽい視線に、楓の頬が熱くなった。
「楓なら書けるよ『リン王子とメイドの恋〜恋人編〜』」
これからはじまる恋人としてのふたりを予感させる彼の言葉に、楓の胸が高鳴った。
「はい……」
ドキドキしながら答えると、彼は意味深に笑いながら続ける。
「その次は婚約編」
「え?」
「その次の次は新婚編」
「ええ⁉︎」
声をあげて目を丸くしていると、彼はぶはっと噴き出して肩を揺らして笑い出した。
「もう! からかわないでくださいよ」
頬を膨らませて彼を睨む。
コーヒーを飲み終えた伊東が、伝票を掴んで立ち上がった。
「そろそろ行こうか、映画の時間に間に合わなくなる」
カランカランという鈴の音と、「ありがとうございました〜!」という店員の声に見送られて外に出る。
日が暮れた夜の街を彼は大通りに向かって歩き出した。並んで歩くのが恥ずかしくて、咄嗟に楓は少し後ろに下がろうとする。
けれどそんなことは許さないとばかりに、大きな手に手を取られてしまった。
しかもしかも、よりによって、指を絡ませるタイプの恋人繋ぎ……!
これが噂の恋人繋ぎ。一生経験経験することはないと思っていた恋人繋ぎ。
その部分を凝視して真っ赤になり、もはや他のことは考えられなくなってしまった楓は、伊東が微笑みながら呟いたのに気がつかなかった。
「俺は、からかったつもりはないけどな」
手を繋いで歩くふたりを、ビルの合間から覗く控えめな都会の星がキラキラと照らしていた。
了

