フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
女性が、ひゃーっという甲高い声をあげて、盆を抱きしめてもだもだした。

「やばい、肌が潤う……! 半年くらい若返る!」

「なんか私たちここで、いろいろ騒いじゃってすみませんでした」

「いえいえいえ、そんなそんな。リアル少女漫画を見せていただいてるみたいで、たいへんよかったです。おめでとうございます」
 
そう言ってもらえて、安心した。
「で、今日はこのあとどちらに……?」

 興味津々で尋ねられて、楓はえへへと頭をかいた。
「会社帰りに待ち合わせからのレイトショーです」
 
伊東につられて最近楓は映画にハマっている。今日はふたりで観に行くことになったのだ。
 
彼女はまたもや、ひゃー!と言ってお盆を抱きしめた。

「いい、素晴らしい! おふたりとも相性ぴったりって感じだから、お似合いのカップルですよー」

「ありがとうございます。彼の方が映画好きなので」

「で、そのあとは?」

「え? そのあと?」
 
意外な問いかけに楓は目をパチパチさせた。
 
今日は映画を観るということは決まっているが、その後の話はしていない。

「解散……じゃないですかね?」
 
今から映画を観たら結構な時間になるはずだ。
 
けれど女性は口を尖らせた。

「えーそうかな〜。だって今日、金曜日ですよ?」

「そうですけど……」

「て、ことはですね。時間はたっぷりあるわけですよ」

「はぁ」
 
わけがわからず返事をすると、女性が心配そうに眉を寄せた。

「なんか彼女さん、ピュアピュアすぎな感じがして心配だな」
 
なにやらぶつぶつ言ったあと、楓を見た。

「念のためにお伝えしますね。付き合いたての彼氏が考えていることってひとつだけで……」

「お待たせ」
 
そこへ第三者の声が割り込んでくる。ふたりして振り返ると、伊東が立っていた。

「あ、お疲れさまです」
 
彼は女性に向かってにっこり笑った。

「僕もコーヒーでお願いします。そのせつはお世話になりました」

「いえいえいえ、こちらこそ、いいもの見させていただきました」
 
女性がにっこり笑って下がっていった。

「遅くなってごめん。太田さんが全部話せって言ってなかなか離してくれなくて」
 
伊東は向かいに座る。

「それって私たちのことですか?」

「そう。楓が小説を書いてることは言ってないよ。だからそのあたりは濁しつつ適当に話してきたけどしつこかった。今度飲みの約束もさせられたし」
 
うんざりとしてそう言う彼がおかしくて楓はくすくす笑う。

「伊東さんが太田さんと仲良しだったの意外です」

「べつに仲良しじゃない。付きまとわれてるだけだ」
 
そこで楓のスマホがブブッと鳴った。鞄から取り出して楓は目を輝かせた。
 
ポップアップに浮かびあがったのはコトマドからの通知だった。

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