フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「またまた〜。伊東さん、自分が優秀だし、周りの人もできて当然って思ってるでしょ〜。ミスした人にもいいよって言ってるけど目が全然笑ってないし」
 
楓はごく親しい人にはおしゃべりになるが、それ以外の人に対しては真逆。何を言えばいいか、何を言ってはいけないか、わからなくなってしまうからだ。
 
それなのに、どうしたことか今は言葉がつるつる出る。
 
完全に酔っ払っている。
 
恐るべしウーロンハイ。

「……やっぱり藤嶋さん、相当酔ってるね」

伊東がまいったなと困ったように呟いた。
 
酔っ払いが、と呆れてもおかしくないのに、それでも彼はにっこりと微笑む。

「でも楽しんでもらえたようでよかったです」
 
出た、キラースマイル!
 
楓のテンションがググッと上がり、意味不明な対抗心がむくむくと湧く。

ふふふ、私には効きませんよ、その攻撃。あなたの裏の顔なんて、するっとまるっとお見通しなんだから。

「だって私、見たんだもん」

「え?」

「伊東さんが、ゴミ袋にぎゅうぎゅうするとこ」

「……ゴミ袋?」

怪訝な表情になる伊東に、楓はしてやったりという気分になる。

一方で、あれ? これって言っちゃっていいやつ?という疑問が頭を掠める。

黙ってなきゃいけなかったような……。

けれど口は止まらない。
 
ひっくとしゃっくりをひとつして、ビシッと彼を指差した。

「ゴミ捨て場で女の人の連絡先をビリビリに破ってるとこ。釣り合わない、二度と話かけてくんな、バーカ!って言ってた」

 言った瞬間、その場の温度が何度か下がり、伊東がピキッとフリーズする。
 
笑顔が引きつりみるみるうちに青ざめる。
 
あ、まずい。
 
そこでようやく我にかえった。
 
し、しまった。胸の中に収めておくはずが……。
 
いくら酔っ払ってテンション上がったからといって、よりによって本人に暴露するなんて!
 
なんてことしてくれたのよと、心の中でウーロンハイに往復ビンタするけれど、時すでに遅しだった。

「……覚えがないな。それっていつのこと?」
 
明らかに今までとは違う低い声で問いかけられて、さーっと血の気が引き、さっきまでのふわふわが嘘のように酔いが覚めていく。
 
ここまで言うつもりはなかったのに。
 
もーなんで言っちゃうのよ、バカバカ。

「……なーんて……想像してみたりして……ちょ、ちょっと飲み過ぎたかも」
 
ずりずりと後ずさりながら誤魔化そうとするが、まったく誤魔化せていないのは表情をなくした伊東の様子から明らかだった。
 
……ああ、最悪。
 
もうなにを言ってもダメな気がして、くるりと彼に背を向ける。

「自分で帰ります! お疲れさまでしたぁ」
 
言い捨てて、あとは一目散にその場を後にした。
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