フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
どんなに居心地が悪いと思っても"角を立てずに中座する"なんて高等技術ができない楓とは違い、伊東はそつなく楓を外へ連れ出す。

「皆さん、そろそろ藤嶋さんはこのあたりで。僕駅に送ってきますね」

「えー、まだいいじゃん、もっとお話ししたい」

「皆さんに付き合ってたら、遅くなるでしょう。僕は二次会には合流します」
 
そして夜の道を駅に向かって歩き出す。

「藤嶋さんが参加してくれて、先輩たち喜んでいましたね。営業メンバーってどうしてもガツガツしちゃうから、藤嶋さんみたいな方、新鮮だったんじゃないかな」

「みなさん親切で、営業さんたちは、すごいなって思いました」

「元気ですよね。僕も見習いたいところばかりで」
 
百点満点の言葉をスラスラと口にして、楓を気遣いつつ周りを褒める。あんなに口が悪いのに、そんな片鱗は微塵も感じられなかった。

いったいどんなカラクリで、こんな紳士に仕上がるのだろうと思ったら、もうおかしくてたまらない。

「例の件、よろしくお願いします。藤嶋さんが担当してもらえるなら、とても心強いです」
 
伊東の言葉に、思わずふふふと笑ってしまう。

「そんなに謙虚なふりをしなくてもいいですよ」

「え……ふりって、本心ですけど」
 
一瞬の間の後、それでも彼はすぐに答える。
 
さすがだ。実力派俳優も真っ青の演技力。
 
今年の日本カエデミーショー主演男優賞は君に決めた!
 
心の中で発表しながら、ニマニマが止まらない。

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