フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
おそらくはもうなにを見られたのかくらいわかってるくせに詰めてくる。だんだんと現れてくる本性が怖かった。
 
コミュ力おばけの営業に、コミュ症の経理が言葉で勝てるわけがないと観念し楓は仕方なく自白する。

「は、半年くらい前に夜の会社で伊東さんが女性の方から連絡先の紙を受け取ってるのを見ました。で、そのままゴミ袋に……随分ご立腹のご様子で」
 
思わず最後は敬語になってしまう。
 
伊東がはっと笑い「殿かよ」と吐き捨てた。
 
ついに本性さまが完全に姿をお現しになられた。
 
伊東は、腕を組んで「なるほどね」と呟いた。

「俺の本性を見たわけだ」
 
鋭い視線でじろりと見られて、楓は恐怖に慄いた。
 
小さい頃に聞いた昔話の中に入ったような気分だった。
 
見ーたーなーって言う妖怪なんだったっけ?

「だ、だけどまぁ、女性にしつこくされていたみたいだし、あれくらいは仕方がないとも思います」
 
命が惜しくて、そうフォローを入れてみる。
 
誰にだって失言はある。ましてや彼はひとりだと思っていたのだ。ちょっと心の声が漏れてしまった程度の出来事だ。
 
たいしたことじゃない。
 
……それなのに。

「どう考えても釣り合わないだろ? てかなんでこの俺とお近づきになれると思うんだろうな? この会社の女の図々しさには驚くよ」
 
清々しいほどの悪態に、楓の口があんぐり開いた。
 
そういうつもりはなかったとか、ちょっと言ってみただけ、というようにとりつくろうつもりはないようだ。

「伊東さんは女性が嫌いなんですか」
 
あまりの言いように聞いてみる。
 
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