フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「あの日は酔ってたから。……以後気をつけます」と神妙に謝った。
 
相変わらず立場はあべこべだ。
 
でもとにかくもう解放してほしいという一心だった。そして二度と関わりたくない。
 
妄想世界でだって扱いにくいよ、こんな二重人格外面王子。

「だから、それが信用できないって言ってんの。また酔っ払ったら言うんじゃないの? ……まぁいいや」
 
そう言って彼はポケットからスマホを出して操作する。そして画面をこちらに向けた。
 
それは、よく知っているアプリの画面だった。
 
楓が毎日開いている、コトマドのあるユーザーのプロフィール画面。
 
ユーザーネーム『カエデちゃん』は、楓がよく知る……。
 
スマホ越しに伊東が問いかける。

「これ、お前だろ?」

「え……! な、なんで知ってるんですか⁉︎」
 
瞬間、伊東がニヤリと笑う。
 
その反応に、楓はしまったと思い口を押さえた。
 
あまりにもびっくりして一番まずい反応をしてしまった。
 
しらばっくれないとダメなのに!
 
あたふたとする楓を伊東 が鼻で笑う。

「前にエレベーターで並んでた時、画面がちょっと見えたんだよ。ユーザーネームも含めてな。全然、興味 なかったし忘れかけてたけど、昨日ちょっと覗いてみた」

覗いてみた、という言葉に頭の中がカッとなってみるみる頬が熱くなった。
 
読まれてしまったのだ、あのおびただしい数の小説を。
 
自由気ままに綴っていた妄想は、SNSだから流せたのだ。
 
現実の誰にも知られていないから。
 
あまりの急展開に絶句して顔が赤くなったり青くなったりを繰り返す楓に、伊東は勝ち誇ったように微笑んだ。
 
まさに悪魔の微笑みだ。

「ま、そういうことだから」
 
スマホをジャケットのポケットにしまい立ち上がる。
 
そういうことってどういうこと?と疑問に思う楓を見下ろす。

「優秀な藤嶋さんならどうするのが得策かはおわかりでしょう。お互いにプライベートなところは干渉せず口外もしないということで。今日はお忙しいところお時間いただきありがとうございました」
 
いきなり伊東さんの顔に戻り伝票を掴む。
「ではお疲れさまです」と言い捨てて、さっさと店を出ていった。
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