フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

早苗さんの超絶不用なアドバイス

なにあいつ⁉︎

なにあいつ!
 
なにあいつ‼︎
 
本当にいったいなにあいつ‼︎
 
伊東が喫茶店から去ったあと、怒りと悲しみで頭から煙を出しながら、楓はどうにかひとり暮らしのアパートへ帰ってきた。

「なんなのよ、伊東倫‼︎」
 
力の限りセンターテーブルをバンッと叩くと、手が痛くて涙が出た。

「くぅ〜!」
 
飲み会で調子に乗ったのはこっちだけど、それにしたってあそこまでする必要ある⁉︎
 
こっちはなかったことにして、彼の本性も黙ってるって約束したのに!
 
ああ、返す返すもウーロンハイが憎い……。
 
アルコールは向こう三百年飲まないと固く決意。
 
でもそもそも飲み会に行かざるを得なくなったのはあなたのせいですよ?と脳内伊東にパンチした。
 
怒りに恥ずかしさが入り混じり、心は爆発寸前。わーわーと大声で叫びながら床の上を転がり回りたい気分だ。
 
が、そんなことをしては近所迷惑なので、しかたなくベッドにダイブ。突っ伏しボスンボスンと枕を殴る。

「外面男! 腹黒! 性悪!」
 
思いつく限りの悪口を枕伊東に向かって吐いた。
 
そしてスマホを手に取りコトマドを立ち上げる。

自由気ままに綴った大量の小説をこれ以上伊東に読まれないように一刻も早く消さなくては。

今この瞬間にもあの悪魔に楓がアップしたものを見られているかもしれない。
 
いや興味ないと言っていたし、読まない可能性は高いだろう。それでも見られているかもしれないという状況が耐え難い。
 
妄想小説を楽しく書くためには、アカウントをリアル人間関係の誰にも知られていないというのが絶対条件なのだ。たとえ家族にだって読まれたくはない。

——でも。
 
消したくない。
 
スマホの画面を開いて涙ぐむ。
この世の終わりのような気分だった。
 
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