フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
そんな母と、母ひとり子ひとりの家庭で育った倫は幼心に母に愛される方法はひとつなのだと理解した。
 
とにかく手のかからない息子でいること。
 
勉強でもスポーツでも対人関係でも、母の手を借りずにうまくやり、間違っても問題を起こしたりしてて母を煩わせてはいけない。彼女が安心して仕事に没頭できるように自分だけの力でうまくやらなくてはならない。
 
さいわいにして倫は、生まれながらに優秀で、スポーツでも勉強でもトップクラスの成績を収めることができた。
 
対人関係だけは、生まれ持った性格をそのまま出してはダメだと早々に悟り、本音をうまく隠すことにした。多少の忍耐は必要だが、その方が圧倒的に有利だし、慣れればどうということはない。
 
こうして倫の人格は出来上がったのである。
 
母の弟でおおよその事情を知っている叔父は、可哀想だと思っているのかときどきさっきのような言葉を口にする。けれど倫はそれには及ばないと思っている。
 
母は子育てには向いていなかったが、母なりの愛情を持って物理的には何不自由なく育ててくれた。大人になった今も関係は悪くない。
 
むしろこの環境があったからこそ、今の自分があるのだと、感謝しているくらいだった。
 
本音と建前を使い分けるくらい大人なら皆あたりまえにやっていることだ。
 
その落差が人より大きいからといってなにが悪い?

「さっきの話の続きだけど、本当の自分を見せられる相手が少ないというのはしんどくないか。お前は難しいやつだが悪いやつではない。いつか理解してくれる人が現れたらいいなと俺は思うよ」
 
目の前にホカホカのハヤシライスを置いて叔父が言う。

「それって……女のこと?」

「まぁ、そうなるかな」

「女はしばらくいらない 」
 
一刀両断して手を合わせて食べはじめると、叔父は肩をすくめて、グラスを拭き始めた。
 
女性との付き合いは、今の倫にとっては苦痛以外のなにものでもない。
 
思春期に入った頃から倫は異性の注目を集めるようになった。年相応の興味から、また体面を保つために、誘われて何人かと付き合った。恋人がいるというのもある種のステータスになる。
 
逆に、優秀でカッコよくてモテるのに恋人がいないと不自然だと捉えられるようで、どこかに知られざる欠陥が?と探られる。
 
ただ倫の外面につられて寄ってくる相手が自分に求めるのは当然ながら完璧な伊東倫で、それを演じるのはわけないが、恋人となるとその時間は長くなる。
 
結局は、好きでもない相手になぜここまでやるのかと嫌気が差して疲れてしまい、あたりさわりのない理由をつけて別れる、というのを繰り返した。ここ数年はひとりだ。
 
恋人がいるとある程度の格好はつくが、必要不可欠というわけではないし、なによりコスパが悪い。
 
そこで倫は、恋人関係に関しては割り切ることにした。
 
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