フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
そういった障害がなくなってしまえば、本来の楓は思っていることをわりとハッキリと言う方だ。

「でもお互いにプライベートなことは口外しない、干渉しないっておっしゃったのは伊東さんですよね。私は約束は守っています。だから私がコトマドになにをUPしようが自由だと思いますが」
 
伊東がふいを突かれたような表情になる。
 
地味メガネのくせに生意気というアテレコが聞こえた。
 
でも言っている内容は間違えてないと思ったからか、腕を組んで黙り込んだ。
 
そこへ注文したものが運ばれてくる。
 
目の前に置かれたメロンクリームソーダに楓の視線は吸い寄せられる。
 
楓はメロンクリームソーダが大好きだ。
 
しゅわしゅわした中にとろりと溶けるアイスクリームの甘い味も好きだけれど、なにより見た目が可愛いからだ。
 
ハッとするような緑色の上に乗った半月球の白とさくらんぼの赤。まるで小宇宙のようだといつも思う。前回来た時は楽しむ余裕がなかったけれど、ここのメロンクリームソーダはピカイチだ。
 
丸いフォルムの大きめなグラスにたっぷりのソーダが遠い惑星の海のよう。ぷかぷか浮かぶアイスの島に、さくらんぼの宇宙船が不時着、船員たちが途方に暮れているのを見ながらスプーンでアイスをひとすくい。
 
船員たちは大慌て。
 
——わー島が沈んでしまう〜!
 
ふふふ、私はこの星に住む怪獣ですよ……。

「なにがおかしい」
 
そこで空想世界はパチンと弾ける。
 
伊東が胡散臭そうに楓を見ていた。

「嫌がらせが成功してご満悦か?」
 
は? 嫌がらせ?
 
ぽかんとするが、短編小説を書いたことを言っているのだと気がついた。
 
嫌がらせをしたつもりはなかったが、言われてみればそうかもしれない。
 
彼を主人公だとわかる小説を彼が読める状態にしたのだから。
 
そう思うと、なにやら申し訳ない気持ちになって、慌てて口を開いた。

「いえいえ、そういうわけではなく……」
 
スプーンで溶けかけたアイスをつつく。

「ここに、宇宙人が……」

「は? 宇宙人?」
 
伊東の眉間のシワが深くなった。

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