フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
伊東が眉を寄せて舌打ちをする。
 
どうやらそのストーリーはお気に召さないらしい。

「だいたい、人だけをモデルにするなんてズルいだろう。自分も出せよ。……そうだな、俺が王子、お前がメイド、お前が俺に恋する話だ」

「は……はぁ⁉︎」
 
思わず楓は声をあげる。
 
どうだ、と言わんばかりにニヤリと伊東が笑う。
 
あきらかに楓からの嫌がらせに対する仕返しだが、それにしても考えることがアホすぎる。
 
優秀だ優秀だと言われているけれど、本当なのなのかと疑問に思うくらいだった。

「ム、ムリムリムリムリムリ」
 
ぞくぞくしながら楓は首をブンブン振った。

「無理すぎる」
 
伊東がむっとしたように眉を寄せた。

「何回言うんだ。言い過ぎだろ」

「だって」

「簡単だろ。お前妄想が得意なんじゃないのか」

「いや、それにしたって。恐怖小説になっちゃいますよ。とにかく絶対に嫌です」
 
わけがわからないなこの人は、と思う。
 
口が悪いとか性悪以前の問題だ。

「嫌、絶対に嫌。お断りいたします」
 
そんなおぞましいことに、私の尊い妄想力を使いたくない。もうさっさと帰ろうと思いメロンソーダを飲んでいると、伊東がふっと笑った。

「……お前が書いてるおびただしい数の小説。最近のやつは、あのギャルがモデルだろ」
 
ぎくっ。
 
ストローがずずっと鳴った。

「さくらちゃんだっけ? あれのモデルは経理部の山口さんだ。本人知ってるのか?」

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