フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「そ、それは……。だけどべつに、変な書き方はしてないし……」
 
山口は楓のお気に入りの主人公だ。
 
でも伊東のような書き方はしていない。サバサバしている愛されキャラで、当然ストーリーはすべてハッピーエンド。
 
万が一、万が一、万が一知られたとしても嫌な気持ちにはならない……はず。
 
そのはずなのだけれど。

「へぇ……オオタと恋愛させてることも?」
 
ぎくっ!
 
動揺を落ち着けるために、楓は半分になったソーダとアイスをマドラーぐるぐる回した。
 
山口と太田は秘密の恋人説は最近のお気に入りの妄想だ。それを楓は寸劇にしたためてコトマドにUPしていた。

「オオタって企画部の太田さんがモデルだろ? ふんわりパーマにおしゃれメガネ。あのふたりしょっちゅうケンカしてるけど、実は付き合ってましたってオチ?」

「ち、違います。あれはただの妄想です」

「ふーん、妄想ね。それ、山口さん的にセーフ? あ、でも太田さんは喜びそうだなぁ。今度……」

「わ、わかりました!」
 
楓は彼の言葉を遮った。
 
書けばいいんでしょ、書けば!
 
卑怯な手を、と思いながら睨むと、伊東は心底嬉しそうに笑う。
 
やっぱりこいつは悪魔だった……!
 
一瞬勢いをなくしたように見えたから、小説をUPしたことを申し訳なく思った気持ちを返してほしいと思っていると、伊東が再び自分のスマホを掴んだ。

「スマホを出せ、連絡先をおしえろ」

「え、どうしてですか?」

「進捗状況の確認は社会人の基本だろう。ここへの呼び出し方法のバリエーションにも限界がある」

「で、でも……伊東さん、女性とは個人的な連絡先は交換しないんじゃ」
 
こちらとしては彼の連絡先なんて知りたくないし知られたくない。嫌すぎて言葉を選ばずにそう言うと、伊東がじろりとこちらを睨んだ。

「お前、ゴミ袋の件をディスッてんのか?」

「いえ、そんなまさか」
 
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