フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

なにあの要求…

マンションに帰ると、コートをソファの背もたれに投げて、ドカッと腰を下ろした。
 
金曜日の夜は、倫が一週間のうちで一番好きな時間である。カレンダー通りの暦で働いている社会人なら、たいていはそうだろう。
 
でも倫は、自分が他の人よりも好きだという自信があった。
 
言うまでもなく、分厚い仮面を脱ぐことができて、外出の予定がなければ二日は、気を抜いていられるからだ。
 
飲み会のない金曜日は、いつもよりいい酒とつまみを買いマンションへ帰る。そして映画をだらだらと観る。
 
でも帰ってきた今、どうしてか気分は晴れなかった。
 
——どうかしてる。なんであんな変なこと言ったんだ?
 
昨日藤嶋楓がコトマドにUPした小説は三十分もせずに読めるものだった。
 
彼女の作品は、ファンタジーや現代もの、サスペンスチックなものまで、ジャンルはバラバラで、まとまりがない。
 
活字は読むが、普段は新聞、書籍ならノンフィクションや、ビジネス書が多い倫には、小説の良し悪しはわからない。
 
だが、楓の作品は人に読ませるためではなく、ただ自分の中にあるなにかをそのまま文字にしたような取り留めのないものだ、ということはわかった。

『リン王子の誤算』を書いたのも、倫への怒りをぶつけたかったからだろう。
 
現実ではやり返す勇気がないチキンのやり方だ。
 
とはいえ、お互いに干渉し合わないと決めたのだから、ルール違反ではない、という楓の主張は正しい。
 
それははじめからわかっているが、それでも呼び出したのは、訳のわからない苛立ちに突き動かされてのことだった。
 
バカバカしいと心底思う。
 
俺の人生、なにもかもうまくいっている。
 
あんな女が書いたフィクションの世界の中で破滅したからといって、それがどうした?
 
名前までパクられているのだから、ひと言くらい文句を言う権利はあるが、ふたりで会っているところを見られるリスクを犯してまでやることか?
 
とはいえとにかく呼び出してしまったのだから、文句は言わせてもらう。そしてすぐに解散のはずだった。
 
そのはずだったのだが……。

『宇宙みたいだなーって』
 
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