フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
心底楽しそうに話す楓の様子に引っ掛かりを覚えて、どうしてかその続きを促してしまった。
 
アホか、ただの飲み物じゃないか。
 
でもそこから宇宙を連想して空想を広げると言う彼女の目はキラキラとしていて、それがどうしてか眩しく感じて胸がうずいた。
 
そんな小さな事から、あの膨大な量の小説を書いているのかと思うと『変なやつ』では終わらせられないなにかを感じてしまったのだ。
 
いやいや趣味だったら、自分だっていろいろやってきた。
 
高校時代は公式テニス、大学ではフットサルチームに所属してたし、今もときどきやっている。
 
それに加えて、料理、読書……。
 
どれも完璧人間伊東倫を演出するに必要なオプションだ。
 
多趣味で交友関係の広い人というのは印象がいい上に、共通の話題ができやすく、営業する上でも有利だ。
 
だが。
 
どれかひとつでも、心から好きだと思ってやったことがあっただろうか?
 
メロンソーダが宇宙に見えるという意味不明なことを言う目の前のこいつのように、心からそれを楽しんだことがあっただろうか?
 
……などと、くだらないことを思ってしまったのは、きっと疲れているからだろう。
 
そう、疲れているからだ。
 
今日は、予定していた仕事に加えて、例の案件の締め切りを太田が破り、それをフォローするという余計な仕事がプラスされた。
 
ある程度予測して、先回りして準備してたから問題は起きなかった。
 
だが、担当者が俺じゃなからヤバかったからな!と悪態をつきたいのを我慢して、次からは期限内にお願いしますと苦笑するにとどめたのには骨が折れた。
 
疲れてるせいだ太田が悪い、と思いながら、もやもやを振り切るために、彼女に突きつけた嫌がらせは、我ながらIQの低すぎる内容だ。
 
まったくいつもの俺らしくない。
 
なんであんなことを?と今になって思う。
 
ネクタイを緩めなから、倫はため息をついた。
 
自己分析は好きじゃない。
 
余計なことを考えずに、人あたりのいい伊東さんを演じる方が楽だからだ。
 
でも今のもやもやを振り切るために必要そうだと判断して、あの時の自分の気持ちを深掘りすると、頭に浮かんだのは楓の作品だった。
 
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