フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「とにかく、早くあのメイドに恋をさせろ、そしてこんなことは終わりにしよう」
 
自分から命じておいて……と言いたいのはやまやまだけれど、終わらせたいのは同感だから、用意していた言い訳を口にする。

「無茶言わないでください。そんな簡単にはいきませんよ。妄想って案外繊細なんです」

「はぁ? 繊細?」

「そうです。私の場合、こうだったらいいのになぁっていう希望みたいな気持ちが妄想を走らせるんです。伊東さんって素敵だなぁ、恋人になってほしいなぁって思うなら、スラスラ書けると思いますが。伊東さん、私が素敵だな、と思う要素ゼロですし。というわけで無理なんです」
 
ドゥーユー アンダスタン?と彼を見ると、伊東の眉間のシワが深くなった。

「知るかそんなの。そこを補うのが腕の見せどころじゃないのか。お前、魔法使えないし幽霊を見たこともないだろう。でもそういう話、書いてたじゃないか」

「わかってないなぁ」
 
肩をすくめ大袈裟にため息をつくと、伊東が「微妙にイラつくな」と呟いた。
 
が、スルーする。

「いいですか? まず、起こった現象を想像して文字にするのと、主人公の気持ちを文字にするのとは違います。そして主人公の気持ちは自分が主人公になりきって書きます。確かに私は幽霊を見たことはありませんが、怖いっていう感情は知っています。だから主人公の感情も自然と湧いてくるってわけですよ」
 
伊東が無の表情になっているのもかまわずに熱く語る。

「魔法を使えた時の爽快感、冒険へ出る前のわくわく感も私は知っているので……」

「なるほど」
 
そこで伊東がふっと笑い楓の言葉を遮った。

「恋愛は、したことがないからわからないんだな。経験がないから想像もできないってことか」

「う……」
 
ぼ、墓穴を掘ってしまった……。
 
ぐぬぬとなるが、まったくその通りだった。
 
恋愛経験皆無の楓には恋心というものがよくわからず、伊東が素敵でない以前に、恋する主人公の気持ちが書けないのだ。
 
< 51 / 141 >

この作品をシェア

pagetop