フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
次の言葉を待っていた楓も同じように眉を寄せた。
 
電池切れか?というくらい静かになった伊東に、どうしたの?と首を傾げる。
 
そのうちにもしかしたらという考えが頭に浮かんだ。
 
まさか、とは思うけれど……。

「伊東さんも、恋したことなかったりして」
 
伊東がぴくりと眉を動かした。

「そ、そんなわけあるか。俺が今まで何人の女と付き合ったと思ってる? お前みたいなお子ちゃまと一緒にするな」

「えー、それとこれとがイコールとは限らないんじゃないかな。伊東さんってモテるし黙ってても女性の方から誘われるから、恋人はできるけど、心の中では相手のことをバカにして好きになんてならなさそう」
 
あくまでも仮定の話でちょっと頭に浮かんだことを口走っただけだったが、伊東がぐっと言葉に詰まるのを見て図星なのだと確信する。
 
楓のテンションが一気にマックス値まで上がった。
 
やった、やっと一矢報いることができた!
 
こんなことを喜ぶなんて、我ながら性格悪いと思うけれど、今まで彼にされたことを考えるとまぁ仕方ない。
 
しかもこれで彼の方も、恋心を知らないふたりが、恋愛小説を仕上げようとするなんて無謀で不毛なことだと気がついたはずだ。
 
グッジョブ私。これでミッションから解放だ〜!
 
心の中でバンザイ三唱していると。

「教えてやるよ」
 
伊東が口を開いた。

「へ?」

「だから、べつに俺の恋愛が……どう……かは関係なくおしえられる方法はある。俺にできないことはない。デートしてやる」

「は⁉︎」

「だからデートしてやるって言ってるんだ。俺のエスコートを一日受ければ一発だ。どんな女も恋に落ちる」

「はあああ?」
 
あまりのことに大きな声を出してしまい、はっとして口を閉じる。慌てて店に他に客がいないことを確認していると、店員の女性がくすくすと笑っていた。

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