フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「なんでそういう発想になるんですか。伊東さん、優秀って言われてるけど嘘でしょう?」
 
小説を書けというミッションも意味不明だったけれど、今回はその遥か上をいく。

「嘘じゃない。社内報に載ってただろ? 正真正銘、俺がウエムラ商会ナンバーワンだ」

「て、転職先を探さないと……」

「なんでだよ」

「会社の将来が心配だからですよ! とにかく意味不明、お断りします」
 
伊東がニヤリと笑った。

「怖いんだろう? 俺のことを好きになるのが」

「は?」

「そしたら失恋確定だもんな。だから怖くてチャレンジできない。なるほど、だったら許してやる、小説の件もなしだ。所詮、藤嶋楓には無理だったということで」

「ないないないないない。好きになんてならないもん」
 
そんなこと、天と地がひっくり返っても、世界が破滅してもあり得ない。

「あり得ないあり得ないあり得ない」

「おい、何回言うんだ、失礼なやつだな」

「だって本当だもん。いいですよ、じゃあデートしましょう! そして、教えてもらいましょうか、恋心とやらを」
 
そう宣言して立ち上がると、伊東も立ち上がりテーブル越しに睨み合った。

「ただし、本気で好きになるなよ? 好きになったら失恋確定だ。その覚悟でこいよ。ハンカチ用意しとけ」

「望むところですよ。ちゃんとトキめかせてくれるんでしょうね? 恋愛小説どころか『最低リン王子の観察記録』にならないといいですが!」
 
店員の女性がくすくすと笑っているのもかまわずに、まるで決闘みたいに話が決まる。
 
こうして楓は生まれてはじめてデートなるものをすることになったのだった。
< 54 / 141 >

この作品をシェア

pagetop