フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
ただの嫌なやつから、嫌なやつだけどちょっと面白いところもあるかも、くらいの微妙な違いだけど。
 
ただ思い返してみると、そもそも自分の方も今日はいつもと少し違っていた。
 
妄想小説を書くということについてあそこまでセキララに語ったのは、家族以外の人に対してははじめてだった。
 
おしえてほしいと言われたわけではないし、彼の方も興味深く聞いていたというわけでもない。
 
それでも楓が話をしたのは……。

「なんでだろ?」

《え? なに?》

「あ、ううん、なんでもない……」
 
秘密の趣味の話をするなんて、今までならめちゃくちゃ抵抗あったのに、それでも自然と話してしまった。
 
なぜだろう?
 
彼自身が自分の本性をさらけ出して堂々としているから?
 
妄想小説を書いていると言った時の彼に、気持ち悪いなと思われている感じを受けなかったから?
 
それでいて、素晴らしい趣味だねというような、とってつけたコメントがなかったのがよかったのかもしれない。
 
ふーん、あっそ、という感じ。
 
それが逆に心地よくていつもなら絶対に言わないことを話してしまったのかもしれない。
 
だからなんだって話だけど、それでもありていに言えば、彼とのやり取りが少し楽しかった……と思わなくもなくもなくもないような。
 
家族以外で、こんな風にありのままの自分で話をしたのはずいぶん久しぶりだ。
 
だから、彼自身を忌み嫌っている、という感じではない。
 
そうではなくて……。

《お姉ちゃん、怖いんでしょ。デートとかリア充っぽいことするのが。いつも言ってるもんね。そういうのはフィクションか、妄想の中で十分だって》
 
自分の気持ちを、早苗にズバリ言いあてられて、ぐっと詰まった。
 
そう、楓は怖いのだ。
 
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