フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
現実の世界でキラキラしたことをするのが。
 
もともと夢見がちな方だった楓が妄想世界にのめり込み、現実を遠ざけるようになったのは、中学の時に起きたある出来事がきっかけだった。
 
中一の時のクラスにすごくカッコいい男子がいた。
 
爽やかで、サッカー部で、イケメンで。例えるなら少女漫画の中のヒーローのような。
 
楓は教室の隅で、本の陰に隠れてよくその彼を目で追っていた。
 
べつに好きだったからというわけではない。物語の中の王子さま役にぴったりだと思ったからだ。
 
それなのに、そんな楓にクラスの誰かが気がついて"藤嶋楓はあいつが好き"という噂を流されてしまった。

『やめろって、そういうの』
 
みんなの前でそれをからかわれた時の、その彼の嫌悪の表情が忘れられない。はっきりと"気持ち悪い"と書いてあった。
 
べつに好きじゃなかったし、からかわれるのが嫌だったのはお互いさま。それでも楓は傷ついた。
 
そしてはっきりとわかったのだ。
 
自分は現実世界の住人じゃない、と。
 
空想の中では魔法も使えるし旅もできる。モンスターだって倒せるけれど、現実の世界ではつまらないどころか恋をするのも嫌がられる存在なのだ、と。
 
だからもう、現実ではなにもしない。気配を消して生きよう。
 
自分には妄想力があるからそれで十分じゃないか。
 
デートなんて、現実ではやってはいけないイベント第一位だ。
 
目的は、恋心を体験するというよくわからないものだから、本当のデートではないけれど、それでもデートはデートだ。コートでもノートでもアートでもない。
 
そんなキラキラしたワードの中に自分が飛び込むのだと思うと怖くてたまらなかった。
 
なんでお前がここにいる?
 
あっちの世界へ帰れと思われるだろう。
 
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