フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

倫の違和感

「ではこちらの案で進めてください」
 
会の進行役がそうまとめると、会議室の空気がホッと緩む。

「おつかれさまです」

「いい感じになりそうでよかったですね」
 
皆口々に言って席を立った。あるアニメとウエムラ商会で扱っている商品とのコラボプロジェクトの打ち合わせである。
 
いくつかの企業が合同で行ったこの打ち合わせに、ウエムラ商会から参加したのは、デザイナーの太田と彼の後輩の北(きた)川(がわ)北川という企画課の女性社員、そして倫の三人だ。
 
先方は、役職付きの社員が同席しているという、やや緊張を強いられる会だった。
 
とりあえず話はまとまり、こちらとしてもいい仕事になりそうだと判断して、倫は内心でホッとする。
 
本来ならこういった会議に営業が参加することはあまりない。

だが今回は営業先の小売店の情報やエンドユーザーの感触等々、生の意見が聞きたいと言われて呼ばれたのである。
 
企画課からは、ついでに倫の交渉力で、価格調整などで不利にならないようにサポートしてほしいとの要請もあった。

「いや〜、伊東くんに来てもらえて助かったな。こんなにスムーズに話が進むとは思わなかった。やっぱり餅は餅屋だね」
 
ビルを出たところで太田が上機嫌でそう言った。
 
あたりまえだ、俺を誰だと思ってる。ウエムラ商会ナンバーワンの貴重な時間を使ってやったんだから感謝しろ、俺の時給高いんだからな?という本音は隠して、倫は柔和に微笑んだ。

「スムーズにいったのは北川さんと太田さんのお力でしょう。先方にも喜んでいただけそうでよかったですね」
 
北川がテンション高く口を挟む。

「えー、でも絶対伊東さんの力も大きかったですよ。この企画、はじめはどうなることかと思ったけど、いい感じになりそうでよかったです」
 
時刻は午後七時、議論が白熱し予定より時間がかかってしまった。
 
冬の日暮は早く空はもう真っ暗で街路樹に施されたイルミネーションがキラキラと輝いていた。
 
そこで北川のスマホが鳴る。彼女は「ちょっとすみません」と断ってから、人の通りを避けて電話に出た。
 
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