フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
少し離れた場所で太田とふたりで待っていると、肘で突かれる。

「王子、聞いたぞ。この間あの子リスちゃんを営業の飲み会に連れてったんだって?」
 
子リスちゃん?

「……藤嶋さんのことですか? はい。とてもお世話になったので」

「貴重な俺のファンを取らないでくれよ〜」
 
太田が口を尖らせた。

「そんなつもりは。本格的に取引がはじまったらお世話になりますし。ただ、彼女、飲み会が苦手だったのかもしれません。誘ってよかったのかどうか」

「ああまぁ、彼女はそんな感じだよな」
 
そんな話をしながら倫は思っていた。
 
アホか、藤嶋楓はお前のファンじゃない。

小説の中でさくらちゃんと恋愛させてるくらいなんだぞ。じっと見てたのは、たぶん小説のネタにしようと観察してたからだ。

「営業部のライオンたちの中に連れてったりして、子リスちゃんに居心地の悪い思いさせたんだろ。かわいそうに。デリカシーに欠ける男は嫌われるぜ?」

「はい、気をつけます」
 
神妙に答えるが、知ったかぶりめ俺の方が藤嶋楓のことを知っていると、心の中で舌を出した。
 
お前は彼女が空想好きで小説を書いていることも知らないんだろ?
 
喫茶店で頼むのは、冬でも、目の前にイケメンがいてもメロンクリームソーダだ。
 
……けれどそこで、いやいやなんで?と、自分自身にツッコミを入れた。
 
おかしいだろ、なんでここで太田と競ってるんだよ。
 
気を取りなおし口を開く。

「この間から太田さん、藤嶋さんのことすごく気にされてますね。もしかして本気です?」
 
いやこれもおかしい。
 
こんなこと普段は聞かないようにしている。誰が誰に気があるかなんて興味もないし、ただの雑談としても不適切な内容だ。
 
なのになんで俺こんなこと聞いてんの?

「んーまだどうかはわかんないけど。俺ってすべての女の子を愛しちゃってるからね。でも子リスちゃん、目立たないだけで実は可愛いと思うんだよね。なんていうか、あのメガネの奥の大きな目がさー」
 
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