フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
なにに対してからわからないまま謝ると、伊東が「いや、謝らなくても」と言って咳払いをした。

「……印象が違うからわからなかっただけ」
 
目を逸らしてそう言った。

「全然気がつかなかったけど、もしかしてさっきからそこにいた? だとしたら、待った?」
 
尋ねられて、楓は首を横に振った。

「いえ、私も今来たところなので」
 
実際には、緊張で結構早く着いていたが、口が勝手にそう答える。そこで「あ」と声を漏らして口を押さえた。
 
も、もしかしてこれが、かの有名な、デートの待ち合わせにおける『待った?』『ううん、今来たどこ』というシチュなのでは?と思ったからだ。
 
フィクションでは使い古されたこの流れを、まさか自分が体験する時がくるなんて、という感動にも似た気持ちが胸に沸き起こる。
 
というか、この流れ。
 
ワンパターンだし、現実には言わないんでしょ?と、ちょっと冷めた気持ちで読んでいたけれど、実際に自分の身になってみると自然と答えてしまうんだ……。
 
などと考えてフリーズする楓に伊東が首を傾げた。

「どうした?」

「あ、すみません。なんか、デートみたいだなと思って」
 
なにも考えずにそう言うと、伊東が呆れたような表情になった。

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