フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

ドキドキエレベーター

スカイツリーに行きたいとなにも考えずに言ってしまったが、上るにはそれなりの手順を踏まなくてはならない、というのを楓は入口に着いてから知った。
 
エスコートだから任せていたというよりはそこまで考えがまわらなかったのだ。とにかく、早苗に言われてデートのマナーのために服やらメガネやらに必死だった。
 
スカイツリーでは混雑を避けるために、入場人数に制限をかけているようで、土曜日の今日は着いたからといってすぐに上れない。

「今からだと、お昼過ぎになっちゃうんですね」

『現在の受付時間』という表示を見ながらそう言うと、伊東がスマホを取り出した。

「予約してるから」
 
そして建物の中に入り、係の人に画面を見せて券売機の列に並んだ。
 
楓は今更反省する。自分が事前調査しなさすぎだ。行きたいと言いだしたくせに。

「ありがとうございます。私ひとりだったら、いつ上れたか……。さすがですね、伊東さんがウエムラ商会ナンバーワンっていうのに納得しました」
 
反省しながらそう言うと伊東がふっと笑う。

「どういうタイミング? このくらいは普通だろ。ただまぁ事前調査は、営業職の癖ではあるかな」
 
そして、楓をチラリと見た。

「惚れた?」

「まさか! このくらいでは」
 
不意打ちを食らい、楓は首を横に振る。本当はスマートだな、とは思ったけれど、とても口にできない。

「ちょろいと思ったんだけど。案外手強いな」

「え、バカにしすぎじゃないです?」
 
チケットを買い、エレベーターの列に並ぶと、そこは人でごった返していた。

「お子ちゃまなのは事実だろう。お前って仕事はできるのに、そういう面では偏差値五十くらい落ちるよな。落差ありすぎ」

「え?」
 
もしかして今私褒められた?と思って首を傾げた。

「なんだ?」

「伊東さん、私のこと、仕事はできるって……」

「事実だろう。だからなに?」

「だって、伊東さんがお世辞を言うなんて……。あ、わかった。これも私に恋心を抱かせるための作戦ですね。とにかく相手を褒めろ、みたいな?」
 
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