フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
恋心フィルター作動
エレベーターと一緒にマックスまで上がった楓のテンションだったが、下りると同時に一気に下がった。想像と現実はまったく違うというのをべつの意味で実感する。
からりと晴れた空が映るガラスの向こうの東京の景色。おもちゃみたいな小さなビルに、すうっと背筋が寒くなって、足が止まる。
伊東が振り返った。
「どうかした?」
「いえ、ちょっと……」
ここまで来てこんな理由言えるはずがないと思いながら、足もとあたりで視線をさまよわせる。
それに伊東が気がついた。
「もしかして、怖い、とか?」
スカイツリーに行きたいと自分から言い出しておいて情けない。情けないがその通りだった。
呆れられるかと思いながら頷くと、伊東が「まじか」と呟いた。
そして人の流れから外れて楓を壁側に立たせてくれ、景色から遮るように立つ。
「いきなり地上四百五十メートルは刺激が強かったか」
「う……すみません」
「いいけど。高所恐怖症か?」
もしそうならなんでよりによってこんなところにって感じだ。
「そんなことはないと思いますが。よくわからなくて。そもそも私、考えてみたらあまり高いところに上ったことなかったかも」
「観覧車とかは?」
「ち、小さい時は乗ったことありますが……。大きくなってからは」
「え、珍しいね」
「だってあれ、リア充の乗り物ですよね」
「なんだそれ、違うだろ」
ふっと笑って伊東が言う。
まったく不快に思っていない様子の伊東に、楓の口が解けていく。
「本当、すみません。私、地元は結構田舎で、そもそもほとんど出歩かない方なので、あまりにもこういうの慣れてなくて。上京してからもまったく観光してないから、ちょっと頭がパニックになってるんだと思います。多分そのうち慣れるかと」
過ぎたわくわくは毒になるという教訓を胸に刻み込む。
そして、引きこもりめとバカにされるのを覚悟するが。
「まぁ、お前なら妄想でどこでも行けそうだしな。出かける必要ないか。ある意味、節約だ」
「え」
「なに?」
「いえ、なにも」
まったくその通り。
楓は今までそうしてきた。だから外へ行く必要性を感じなかったのだ。
他人には理解してもらえない楓の中だけの楽しみを肯定してもらえたような感じがして、なんだか少し嬉しかった。
また心臓が熱心に血液を送りだしはじめて、楓の頬が熱くなった。
さすがは伊東さん、と尊敬の眼差しで伊東を見た。
どんな相手のことも理解して、その人が言ってほしい言葉を的確に口にする。
彼こそが、恋の伝道師!
すると彼は、なにか考えるように首を傾げる。
そして楓の位置まで身を屈めて、周りに聞こえないくらいのまで声を落とした。