フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「なぁ、楓って呼んでもいい?」
「はっ⁉︎」
あまりにも唐突かつ、脈略のない言葉に、楓はパニックになる。
目をパチパチさせる視線の先で伊東が噴き出した。
「豆鉄砲喰らったのかよ」
「だ、だって、なんですか⁉︎ い、いきなり」
「や、高いところに来てドキドキしてるなら、べつのドキドキで上書きしたら収まるかなと思って」
「な、なんですか、それ!」
とんでもないやり方だ!と思うけれど、確かに楓はさっきとはべつの意味でドキドキしている。
ここ数分の間にたくさんの種類の感情が一度に押し寄せて心臓が「これ以上は無理〜!」と悲鳴をあげている。
「冗談、冗談。……そろそろ行けそうか?」
それには答えずに、楓はカバンをギュッと掴んで口を開いた。
「呼んでください!」
「……え?」
「楓って、呼んでください。すっごくドキドキしました。このままいけばわかるかも」
「え」
そのまま伊東は固まっている。
また変なことを言い出したなと思われているのは重々承知しながら、楓はわけを説明する。
「このまま伊東さんとデートすれば、本当に恋心ってどういうものわかるかもしれません。エレベーターでもなんかすごくドキドキしましたし。だからぜひ呼んでほしいです」
「……だけどわかりたくないんじゃないのか? 絶対に好きになんてならないもん!って喫茶店で絶叫してたじゃないか」
「ぜ、絶叫なんてしてないし。……確かにそう言いましたけど。でもでも、恋心が擬似体験できるなら、その方がいいかなって。恋愛小説書けるようになりたいし。今日を逃したらもうこういうチャンスは一生来なさそうなので」
伊東が呆気に取られたような表情になって呟いた。
「どんだけ本気なんだよ。バカなやつ」
バカと言われているのにも関わらず不思議と腹は立たなかった。本当にバカにされているわけではないとなぜか思う。
けれどポーズとして口を尖らせる。
「妄想小説は私の生きがいだもん。嫌ならべつにいいです」
「嫌だったら自分から言い出したりしないよ。その様子なら大丈夫そうだな。行こうか、楓」
さらりと呼ばれて、鼓動がドキンと跳ねる。
そして楓は確信する。
やっぱり、このままいけば、私にも恋心が理解できそう。
期待に胸膨らませていると、伊東が楓の手を取った。そのまま彼の腕に導かれる。
「せっかくならこうするか?」
デートだから腕を組むということだろう。
さらりとそんな提案をする彼は、すごくカッコいい。今日ここに来るまでは全然まったく一ミリもそんな風には思わなかったのに。
恋心フィルターってすごい!
「はい、ぜひよろしくお願いします。精一杯勉強させてもらいます!」
やる気が満タンに満たされる、どころか溢れだすのを感じながらそう言うと、近くを通りすぎる親子づれの母親が、不思議そうに首を傾げた。
「おま……だから、言い方……!」
伊東がくっくと肩を揺らして笑う。
「うぅ……す、すみません。つい」
「いいけど、じゃあ行こうか」
生まれてはじめて男性の腕を取り、ドキドキとわくわくに満たされるのを感じながら、楓は晴天の空の下、東京の景色の方へ一歩足を踏み出した。
「はっ⁉︎」
あまりにも唐突かつ、脈略のない言葉に、楓はパニックになる。
目をパチパチさせる視線の先で伊東が噴き出した。
「豆鉄砲喰らったのかよ」
「だ、だって、なんですか⁉︎ い、いきなり」
「や、高いところに来てドキドキしてるなら、べつのドキドキで上書きしたら収まるかなと思って」
「な、なんですか、それ!」
とんでもないやり方だ!と思うけれど、確かに楓はさっきとはべつの意味でドキドキしている。
ここ数分の間にたくさんの種類の感情が一度に押し寄せて心臓が「これ以上は無理〜!」と悲鳴をあげている。
「冗談、冗談。……そろそろ行けそうか?」
それには答えずに、楓はカバンをギュッと掴んで口を開いた。
「呼んでください!」
「……え?」
「楓って、呼んでください。すっごくドキドキしました。このままいけばわかるかも」
「え」
そのまま伊東は固まっている。
また変なことを言い出したなと思われているのは重々承知しながら、楓はわけを説明する。
「このまま伊東さんとデートすれば、本当に恋心ってどういうものわかるかもしれません。エレベーターでもなんかすごくドキドキしましたし。だからぜひ呼んでほしいです」
「……だけどわかりたくないんじゃないのか? 絶対に好きになんてならないもん!って喫茶店で絶叫してたじゃないか」
「ぜ、絶叫なんてしてないし。……確かにそう言いましたけど。でもでも、恋心が擬似体験できるなら、その方がいいかなって。恋愛小説書けるようになりたいし。今日を逃したらもうこういうチャンスは一生来なさそうなので」
伊東が呆気に取られたような表情になって呟いた。
「どんだけ本気なんだよ。バカなやつ」
バカと言われているのにも関わらず不思議と腹は立たなかった。本当にバカにされているわけではないとなぜか思う。
けれどポーズとして口を尖らせる。
「妄想小説は私の生きがいだもん。嫌ならべつにいいです」
「嫌だったら自分から言い出したりしないよ。その様子なら大丈夫そうだな。行こうか、楓」
さらりと呼ばれて、鼓動がドキンと跳ねる。
そして楓は確信する。
やっぱり、このままいけば、私にも恋心が理解できそう。
期待に胸膨らませていると、伊東が楓の手を取った。そのまま彼の腕に導かれる。
「せっかくならこうするか?」
デートだから腕を組むということだろう。
さらりとそんな提案をする彼は、すごくカッコいい。今日ここに来るまでは全然まったく一ミリもそんな風には思わなかったのに。
恋心フィルターってすごい!
「はい、ぜひよろしくお願いします。精一杯勉強させてもらいます!」
やる気が満タンに満たされる、どころか溢れだすのを感じながらそう言うと、近くを通りすぎる親子づれの母親が、不思議そうに首を傾げた。
「おま……だから、言い方……!」
伊東がくっくと肩を揺らして笑う。
「うぅ……す、すみません。つい」
「いいけど、じゃあ行こうか」
生まれてはじめて男性の腕を取り、ドキドキとわくわくに満たされるのを感じながら、楓は晴天の空の下、東京の景色の方へ一歩足を踏み出した。