フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
早苗からの着信だ。

《もしもーし! デートについての報告のお時間でーす! ただし、今からホテルとかなら、明日でも可》

「たった今解散したとこ」
 
人の流れの邪魔にならないように隅っこに避けて答えた。

《なぁんだ。でも結構粘ったね? 正直、お姉ちゃんのことだから午前中で泣きべそかいて解散もありうると思ってたのに》

「お姉ちゃんをみくびってもらったら困るわ」
 
しょっぱなから、やめようと言ったのも忘れてふふんと笑う。

「一日がっつり楽しんできました」

《わーおめでとう。で? どうだった? 王子さま》

「すごかった」

《お?》

「めっちゃドキドキした!」

《おおおおお?》
 
スマホの向こうで早苗が色めき立つのを感じながら力説する。

「さっすがだわ。エレベーターに乗るだけでドキドキよ」

《エレベーターに乗るだけで⁉︎ どんな高等テクニック? やっぱり都会の男は違うねー! 私もなにがなんでも東京で就職しなくちゃ》

「その後もドキドキさせられっぱなしで。夢のようなデートでした」

《まじか〜! で? これから先はどうなりそう?》

「これから先?」
 
楓は目をパチパチさせる。そんなことを聞かれるのが意外だった。だってこの後のことは決まってる。
「そりゃあもちろん、書くのよ」

《は?》

「超大作を書く! 人生初の恋愛小説にチャレンジよ」
 
意気込んでそう宣言する。が、なぜか早苗の反応はイマイチだ。

《いや、私が聞いてるのはそういうことじゃなくて……》

「え、じゃあどういうこと? だってこのためにデートしたんだよ。言ったでしょ」

《いや、そうだけさー……そうじゃないっていうか。だってお姉ちゃんドキドキしたんでしょ?》

「うん」

《だったらさー、他になにかあるでしょう?》
 
早苗の言いたいことが、楓にはよくわからなかった。

「他に……? 擬似恋愛体験でこんなにドキドキさせてもらったお礼をする……とか?」

《いや、そうじゃなくて。てか擬似って。お姉ちゃんさ、それ……》

「ごめん、早苗」
 
奥歯に物が挟まった言い方をする早苗の話を楓は遮った。

「今お姉ちゃん、猛烈に急いでるの。早くこの気持ちを文字にしたいんだ。詳しい話はまた今度ね」
 
そして返事を聞かずに通話をオフ。一刻も早くこの気持ちを文字にするため、コトマドを開いた。
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