フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
でも、もやもやしたままなのはもっと嫌だ。
思いあたるのは、別れ際、楓に対して感じた気持ちだ。
家まで送るという申し出を彼女はきっぱり断った。
あたりまえだ。
まだそれほど遅くはなく人通りもある。最寄駅からマンションが近いなら危険は少ない。逆に親しくもない相手に家を知られる方がリスキーだろう。
倫もすぐに納得し、あっさりと別れた。が、その後、妙な物足りなさを感じたのだ。
そしてそれを埋めたくて、直帰せずにここへ来た?
——マジか。
そのことに思いあたり愕然とする。
まさか俺は、彼女ともう少し一緒にいたかったのか?
そんなこと、今まで誰にも感じたことがなかったのに。
いったいなぜそんなことを思ったのだろう?
自分で自分の気持ちがわからないなんて、こんなことははじめてだった。
けれど考えてみれば、今日の倫ははじめからどうかしていた。計算された作り物の外面ではなく、素の自分であれほど長い時間他人と過ごしたのは記憶にある限りはじめてだ。
本当はそんなつもりはなかったのだ。すでに本性がバレているとはいえ、適度に取り繕い、親切で紳士な伊東倫の顔で過ごすつもりだった。
恋愛するならその方が圧倒的に有効だからだ。
けれどその決意は、待ち合わせ早々に、いつもの通りに振る舞う楓を前に、いとも簡単に崩された。自分で決めたペースを保てないまま、本当の自分の顔で一日過ごすことになったのだ。
本当に、あいつはいったいなんの電波を出してるんだ?
仮面の着脱に関してはこの二十数年間、完璧にコントロールできていたのに。
家庭環境が影響して外では穏やかで感じのいい人柄を演じるようになった倫だが、年齢を重ねるにつれてより完璧を追求するようになっていった。
それは周囲の期待に応えてのことだった。
王子さまのような伊東倫。
なんでもそつなくこなす、天才肌の伊東倫。
にこやかで穏やかな伊東倫。
自ら作り上げたイメージは、人生を華々しいものにすると同時に、綻びを見られた時のリスクは大きなものになっていった。
『君にもそんなところあるんだね』
『意外ですね、ちょっとイメージと違うかも』
そう言われることは倫にとって恐怖だった。
母親にも愛されなかった素顔の自分に、周りが失望するのは当然だ。だからこそ絶対に誰にも見られないようにしなくては。
だから楓に『素の伊東さんなんですね』と言われた時は身構えた。そしてそれに続く言葉が頭の中で勝手に再生された。
『期待してたのに、がっかりしました』?
『素の伊東さんじゃ恋心は抱けませんよ』?
けれど彼女はまったく逆の言葉を口にした。
『素顔の伊東さんの方が好きですし』
思いあたるのは、別れ際、楓に対して感じた気持ちだ。
家まで送るという申し出を彼女はきっぱり断った。
あたりまえだ。
まだそれほど遅くはなく人通りもある。最寄駅からマンションが近いなら危険は少ない。逆に親しくもない相手に家を知られる方がリスキーだろう。
倫もすぐに納得し、あっさりと別れた。が、その後、妙な物足りなさを感じたのだ。
そしてそれを埋めたくて、直帰せずにここへ来た?
——マジか。
そのことに思いあたり愕然とする。
まさか俺は、彼女ともう少し一緒にいたかったのか?
そんなこと、今まで誰にも感じたことがなかったのに。
いったいなぜそんなことを思ったのだろう?
自分で自分の気持ちがわからないなんて、こんなことははじめてだった。
けれど考えてみれば、今日の倫ははじめからどうかしていた。計算された作り物の外面ではなく、素の自分であれほど長い時間他人と過ごしたのは記憶にある限りはじめてだ。
本当はそんなつもりはなかったのだ。すでに本性がバレているとはいえ、適度に取り繕い、親切で紳士な伊東倫の顔で過ごすつもりだった。
恋愛するならその方が圧倒的に有効だからだ。
けれどその決意は、待ち合わせ早々に、いつもの通りに振る舞う楓を前に、いとも簡単に崩された。自分で決めたペースを保てないまま、本当の自分の顔で一日過ごすことになったのだ。
本当に、あいつはいったいなんの電波を出してるんだ?
仮面の着脱に関してはこの二十数年間、完璧にコントロールできていたのに。
家庭環境が影響して外では穏やかで感じのいい人柄を演じるようになった倫だが、年齢を重ねるにつれてより完璧を追求するようになっていった。
それは周囲の期待に応えてのことだった。
王子さまのような伊東倫。
なんでもそつなくこなす、天才肌の伊東倫。
にこやかで穏やかな伊東倫。
自ら作り上げたイメージは、人生を華々しいものにすると同時に、綻びを見られた時のリスクは大きなものになっていった。
『君にもそんなところあるんだね』
『意外ですね、ちょっとイメージと違うかも』
そう言われることは倫にとって恐怖だった。
母親にも愛されなかった素顔の自分に、周りが失望するのは当然だ。だからこそ絶対に誰にも見られないようにしなくては。
だから楓に『素の伊東さんなんですね』と言われた時は身構えた。そしてそれに続く言葉が頭の中で勝手に再生された。
『期待してたのに、がっかりしました』?
『素の伊東さんじゃ恋心は抱けませんよ』?
けれど彼女はまったく逆の言葉を口にした。
『素顔の伊東さんの方が好きですし』