フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
そうだろう? 俺は彼女になにをした?
 
本性を知られたことに逆ギレして、彼女が大切にしている世界に土足で入って踏みにじった。できることなら時間を遡り、過去の自分を殴打してやりたい。
 
今日一日は比較的いい雰囲気だったけれど、それらを上書きできるほどではないはずだ。彼女の方も擬似恋愛を楽しんでいるように思えたが……。
 
——擬似、か。
 
白いため息が夜の空に消えていく。
 
彼女にとっては擬似恋愛、自分はそれを提供しているだけのつもりだったが、そうではなかったというわけだ。
 
いやワンチャン、彼女の方も本気になっているが、それを隠している可能性はないだろうか?
 
そうだとしてもおかしくはない。倫は事前に本気になるなよと釘を刺した。だから……。
 
——いやないな。
 
またもや倫は自分の考えを打ち消した。彼女の方は完全に、妄想小説のために行動している。倫が本気になっているなど考えもしないだろう。
 
ゆらゆらのカウンターに突っ伏して泣いていた男の無様な姿が頭に浮かんだ。
 
楓とのこの関係の先にある、自分自身の結末だ。
 
ああなるのは絶対に嫌だった。血の滲む努力で築き上げた完璧な人生に、失恋の挫折は必要ない。
 
今ならまだ間に合う。
 
無様な自分になることを回避するため、もう藤嶋楓に関わるのはやめよう。
 
チラチラと降り出した雪を見上げて、倫はそう決意した。
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