フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
デートの夜、家に帰ってすぐ楓は、『リン王子とメイドの恋』の執筆に取りかかった。
リン王子がお忍びで街を視察するという展開で、それに付き添うことになったカエデは彼の意外な一面を目の当たりにする。
彼は自分を過大評価しておらず、だからこそ国民の期待に応えるために完璧を演じている。そしてそれには相当の努力が伴っている。
カエデの過去のトラウマを親身になって聞く優しさもあったりして、ぶっきらぼうで、少しわかりにくいけれど、魅力的な人物だということをおでかけエピソードに絡めて描いた。
フィクションだし多少誇張している部分もあるけれど、すべてあの日楓が伊東に感じた想いがベースになっている。
意外なリン王子の素顔に、カエデがドキドキする心理描写もふんだんに盛り込んだ。
リン王子はクズなどではなくカエデが恋するのに相応しい人物だということを読み手に伝えられたという手応えがあった。
実際、いいね!の数が格段に増えた。それだけでなく〝リン王子ステキ!〟という感想がいくつもついたのだ。小説をSNSにアップするようになってから数年経つが、こんなことははじめてだ。嬉しくてたまらなかった。
それもこれも全部伊東のおかげなのだ。
彼は恋の伝道師、デートにおけるエスコートのプロフェッショナル。自分に恋心をおしえてくれた恩人ともいえる存在だ。迷惑をかけるわけにはいかない。
さらに言えば楓は、この後も彼にお願いしたい件があって、そのために少しも彼を煩わせたくなかった。
楓と交流しているのを周囲に知られるなどその最たるもの。なにせふたりは会社では営業部の王子さまと経理部の座敷童子。住む世界が全然違う。
と、そこで、なぜか胸がチクリと痛み、ん?と首を傾げた。
なんの痛み?
彼と自分は本当ならかかわることがないくらい立場が違う。連絡先を交換したのも特殊な事情があるからだ。そんなことはじめからわかっていることなのに。
立ち止まり考えていると通りの向こうから、伊東が歩いてくる。営業先から帰社したのだろう。かっちりとしたスーツの上にチェスターコートを隙なく着こなし今日も完璧だ。
向こうも楓に気がついたようで近くまできて足を止める。
「藤嶋さん、お疲れさま」
社外ではあるものの、この時間帯のこのあたりは社員だらけだ、彼はオフィシャルモードで話しかけてきた。
「お疲れさまです」
楓は面くらいながら答えた。誰に見られるかもわからないこんな場所でまさか話しかけてくるとは思わなかったからだ。けれどそれならばちょうどいい。
「伊東さん、あの……ちょっと相談したいことがあるんですが」
デートの日から今日でちょうど十日。
リン王子がお忍びで街を視察するという展開で、それに付き添うことになったカエデは彼の意外な一面を目の当たりにする。
彼は自分を過大評価しておらず、だからこそ国民の期待に応えるために完璧を演じている。そしてそれには相当の努力が伴っている。
カエデの過去のトラウマを親身になって聞く優しさもあったりして、ぶっきらぼうで、少しわかりにくいけれど、魅力的な人物だということをおでかけエピソードに絡めて描いた。
フィクションだし多少誇張している部分もあるけれど、すべてあの日楓が伊東に感じた想いがベースになっている。
意外なリン王子の素顔に、カエデがドキドキする心理描写もふんだんに盛り込んだ。
リン王子はクズなどではなくカエデが恋するのに相応しい人物だということを読み手に伝えられたという手応えがあった。
実際、いいね!の数が格段に増えた。それだけでなく〝リン王子ステキ!〟という感想がいくつもついたのだ。小説をSNSにアップするようになってから数年経つが、こんなことははじめてだ。嬉しくてたまらなかった。
それもこれも全部伊東のおかげなのだ。
彼は恋の伝道師、デートにおけるエスコートのプロフェッショナル。自分に恋心をおしえてくれた恩人ともいえる存在だ。迷惑をかけるわけにはいかない。
さらに言えば楓は、この後も彼にお願いしたい件があって、そのために少しも彼を煩わせたくなかった。
楓と交流しているのを周囲に知られるなどその最たるもの。なにせふたりは会社では営業部の王子さまと経理部の座敷童子。住む世界が全然違う。
と、そこで、なぜか胸がチクリと痛み、ん?と首を傾げた。
なんの痛み?
彼と自分は本当ならかかわることがないくらい立場が違う。連絡先を交換したのも特殊な事情があるからだ。そんなことはじめからわかっていることなのに。
立ち止まり考えていると通りの向こうから、伊東が歩いてくる。営業先から帰社したのだろう。かっちりとしたスーツの上にチェスターコートを隙なく着こなし今日も完璧だ。
向こうも楓に気がついたようで近くまできて足を止める。
「藤嶋さん、お疲れさま」
社外ではあるものの、この時間帯のこのあたりは社員だらけだ、彼はオフィシャルモードで話しかけてきた。
「お疲れさまです」
楓は面くらいながら答えた。誰に見られるかもわからないこんな場所でまさか話しかけてくるとは思わなかったからだ。けれどそれならばちょうどいい。
「伊東さん、あの……ちょっと相談したいことがあるんですが」
デートの日から今日でちょうど十日。