フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
今日までの日々で伊東からのコンタクトはなかった。ふたりのミッションはもうあれで終わりだということだろう。忙しい彼が楓とのお遊びにいつまでもかまっていられないと思うのは当然だ。
ただ楓の方は、ダメもとでお願いしたいことがある。
「なにかな」
「あ、えーっと」
口を開きかけて言い淀む。道ゆく人がこちらをチラリと見たからだ。楓は見覚えがないが、ウエムラ商会の社員かもしれない。楓はともかく伊東のことはほぼ全社員が知っている。
「藤嶋さん、お昼は?」
「まだです」
「僕もなんだ、よかったら一緒に」
営業社員らしいスマートさで誘われて、楓は彼と昼を取ることになった。
そしていつもの喫茶店。
普段は夕方しか来ないから気がつかなかったけれどランチタイムはフードメニューも取り扱っているようだ。
通りから外れているからか客はそれほど多くない。待つことなくいつもの席に通された。
日替わりランチをふたつ頼み、楓は口を開いた。
「伊東さん、あの。コトマド、見てくれました?」
「……ああ、読んだ」
どこか気まずそうに伊東は答える。
あまり興味なさそうなその様子に楓は少し落胆する。自分としては会心の出来だったから、少し寂しい気がしたが、そもそも彼は楓の書く小説自体に興味があるわけではない。
「それで、その……」
まぁ、こんなものかと思いながらこの先のことを話そうと思った時、定食が運ばれていた。
時間がないから食べながら話をする形になる。
いただきますをして食べはじめる倫を楓はチラリと盗み見る。
彼の態度がいつもと少し違うように思えるのは気のせいだろうか。口数が少なく、楓と目を合わせるのを避けているようにすら思える。
ひと言で言うとよそよそしい。
「あの話なら、よかったと思う。あれで俺は納得した」
具体的にどう言おうか考えあぐねているうちに、伊東の方が口を開いた。
納得した。つまりミッション完了という意味だろう。
けれど楓はまだ完了したくない。
「あの……話というのはそのことなんです」
「そのこと?」
「はい。この前アップしたあの展開、すごく評判いいんです。今まで書いた話の中で一番いいね!が多くて。私も書くのすごくすごく楽しかったので、それが文章に出たのかも。全部伊東さんのおかげです。お礼が言いたくて、ありがとうございました」
楓がぺこりと頭を下げると、伊東は箸を止めて驚いたようにこちらを見た。
「いや、礼を言われるようなことでは……どちらからと言うと嫌がらせに近かったし。俺が謝るべきのような」
「そんな必要はありません」
首を横に振り、いつになく歯切れが悪い彼の言葉を遮った。
デートをすることになった経緯はともかく、あの日彼は休日丸々一日を楓のために使ってくれた。どんな理由だとしても、楓のことを考えて楓が楽しめるように計画してくれたのだ。
ただ楓の方は、ダメもとでお願いしたいことがある。
「なにかな」
「あ、えーっと」
口を開きかけて言い淀む。道ゆく人がこちらをチラリと見たからだ。楓は見覚えがないが、ウエムラ商会の社員かもしれない。楓はともかく伊東のことはほぼ全社員が知っている。
「藤嶋さん、お昼は?」
「まだです」
「僕もなんだ、よかったら一緒に」
営業社員らしいスマートさで誘われて、楓は彼と昼を取ることになった。
そしていつもの喫茶店。
普段は夕方しか来ないから気がつかなかったけれどランチタイムはフードメニューも取り扱っているようだ。
通りから外れているからか客はそれほど多くない。待つことなくいつもの席に通された。
日替わりランチをふたつ頼み、楓は口を開いた。
「伊東さん、あの。コトマド、見てくれました?」
「……ああ、読んだ」
どこか気まずそうに伊東は答える。
あまり興味なさそうなその様子に楓は少し落胆する。自分としては会心の出来だったから、少し寂しい気がしたが、そもそも彼は楓の書く小説自体に興味があるわけではない。
「それで、その……」
まぁ、こんなものかと思いながらこの先のことを話そうと思った時、定食が運ばれていた。
時間がないから食べながら話をする形になる。
いただきますをして食べはじめる倫を楓はチラリと盗み見る。
彼の態度がいつもと少し違うように思えるのは気のせいだろうか。口数が少なく、楓と目を合わせるのを避けているようにすら思える。
ひと言で言うとよそよそしい。
「あの話なら、よかったと思う。あれで俺は納得した」
具体的にどう言おうか考えあぐねているうちに、伊東の方が口を開いた。
納得した。つまりミッション完了という意味だろう。
けれど楓はまだ完了したくない。
「あの……話というのはそのことなんです」
「そのこと?」
「はい。この前アップしたあの展開、すごく評判いいんです。今まで書いた話の中で一番いいね!が多くて。私も書くのすごくすごく楽しかったので、それが文章に出たのかも。全部伊東さんのおかげです。お礼が言いたくて、ありがとうございました」
楓がぺこりと頭を下げると、伊東は箸を止めて驚いたようにこちらを見た。
「いや、礼を言われるようなことでは……どちらからと言うと嫌がらせに近かったし。俺が謝るべきのような」
「そんな必要はありません」
首を横に振り、いつになく歯切れが悪い彼の言葉を遮った。
デートをすることになった経緯はともかく、あの日彼は休日丸々一日を楓のために使ってくれた。どんな理由だとしても、楓のことを考えて楓が楽しめるように計画してくれたのだ。