フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
その結果、経験値ゼロの楓でもまるで伊東と恋人同士かのように楽しめたのだ。そして生涯書けないだろうと諦めていた恋愛小説にチャレンジできている。
終わってみれば楓にとってはいいことばかり、謝られることはなにもない。
「デートでの伊東さん、むちゃくちゃカッコよかったです。私、すごくドキドキしました! さすがです!」
勢い込んでそう言うと、伊東が豆鉄砲を食らったかのように目を丸くしていた 。少し顔が赤い。
どうしたのかな?と不思議に思うけれど、とりあえず感謝の気持ちを口にする。
「私みたいな初心者でも、恋心を擬似体験できたのは、相手が伊東さんだったからです。本当に本当にありがとうございます」
伊東が我に返ったように瞬きを繰り返し「擬似体験……」と呟いた。
「……ならよかったけど」
「それでお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、あの……私と付き合ってくれませんか?」
「…………は?」
また伊東がフリーズする。
変なことをお願いして申し訳ないと思いつつ、顔の前で拝むようにパチンと手を合わせた。
「もう少し、私の恋愛体験に付き合ってほしいんです。小説の続きを書くために!」
「……小説を書くために?」
「そうです。デートする前、伊東さんのこと魅力ゼロなんて言ってすみませんでした。お詫びして撤回します! 伊東さんはクズなんかじゃありません。めっちゃカッコいいです。ウエムラ商会売上部門だけでなく、一緒にいるとドキドキする男部門でもナンバーワンです。だから恋人同士のイベントのもう少し先のことを教えてほしいんです」
お願いをすべて言い終えて、楓は頭を下げて目を閉じた。あとはお祈りするのみだ。
こんなお願いを叶えるメリットは彼にはない。断られるかもしれないのは想定済みだ。
「恋人同士のイベント、もう少し先……?」
伊東が掠れた声でそう言った後、ゴホゴホとむせた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、いや、大丈夫。……だけどなんでそこまで」
「この前のデートで私わかったことがあって。現実は妄想よりもすごいんだって。妄想するのも楽しいけど、リアルを体験すればもっと楽しくなるし、世界が広がるってわかったんです。だけど私には、そんなチャンスはなかなか……だから、お願いします!」
妄想が楓の人生を彩ってくれた。妄想力があったからどこにいてもなんとなく浮いてしまうという寂しさを乗り越えられたのだ。そしておそらくそれはこれからも。
けれどその妄想をより楽しむためには、リアルな体験も必要だ。それを伊東とのデートで思い知った。
できればこれからも無理なく体験したいと思う。楓にとってはハードルの高い話だけれど、伊東とならばできると思う。
彼は楓の妄想癖を軽蔑したりしないから。
「小説では王子が本当は魅力的な人物だってところまで書きました。伊東さん的にはこれで満足だと思いますが、私は最後まで書きたいんです」
妄想を垂れ流しているだけの小説だから、べつに誰にも読まれなくてもかまわない。けれど反響があったなら、それはそれで期待に応えたいと思う。
今回楓は、〝続きを楽しみにしてます〟という読者からのメッセージをはじめてもらった。
「伊東さんが忙しいというのは知ってます。時間がある時でいいので、私に恋人同士のその先をおしえてください。お願いします」
ダメもとだ。
そこまでやる義理はないと言われるのは覚悟の上だがこのチャンスを逃したくはない。切実な思いを込めて彼をじっと見つめると、伊東がたじろいだように瞬きをした。
「ダメですか?」
「ダメでは……」
終わってみれば楓にとってはいいことばかり、謝られることはなにもない。
「デートでの伊東さん、むちゃくちゃカッコよかったです。私、すごくドキドキしました! さすがです!」
勢い込んでそう言うと、伊東が豆鉄砲を食らったかのように目を丸くしていた 。少し顔が赤い。
どうしたのかな?と不思議に思うけれど、とりあえず感謝の気持ちを口にする。
「私みたいな初心者でも、恋心を擬似体験できたのは、相手が伊東さんだったからです。本当に本当にありがとうございます」
伊東が我に返ったように瞬きを繰り返し「擬似体験……」と呟いた。
「……ならよかったけど」
「それでお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、あの……私と付き合ってくれませんか?」
「…………は?」
また伊東がフリーズする。
変なことをお願いして申し訳ないと思いつつ、顔の前で拝むようにパチンと手を合わせた。
「もう少し、私の恋愛体験に付き合ってほしいんです。小説の続きを書くために!」
「……小説を書くために?」
「そうです。デートする前、伊東さんのこと魅力ゼロなんて言ってすみませんでした。お詫びして撤回します! 伊東さんはクズなんかじゃありません。めっちゃカッコいいです。ウエムラ商会売上部門だけでなく、一緒にいるとドキドキする男部門でもナンバーワンです。だから恋人同士のイベントのもう少し先のことを教えてほしいんです」
お願いをすべて言い終えて、楓は頭を下げて目を閉じた。あとはお祈りするのみだ。
こんなお願いを叶えるメリットは彼にはない。断られるかもしれないのは想定済みだ。
「恋人同士のイベント、もう少し先……?」
伊東が掠れた声でそう言った後、ゴホゴホとむせた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、いや、大丈夫。……だけどなんでそこまで」
「この前のデートで私わかったことがあって。現実は妄想よりもすごいんだって。妄想するのも楽しいけど、リアルを体験すればもっと楽しくなるし、世界が広がるってわかったんです。だけど私には、そんなチャンスはなかなか……だから、お願いします!」
妄想が楓の人生を彩ってくれた。妄想力があったからどこにいてもなんとなく浮いてしまうという寂しさを乗り越えられたのだ。そしておそらくそれはこれからも。
けれどその妄想をより楽しむためには、リアルな体験も必要だ。それを伊東とのデートで思い知った。
できればこれからも無理なく体験したいと思う。楓にとってはハードルの高い話だけれど、伊東とならばできると思う。
彼は楓の妄想癖を軽蔑したりしないから。
「小説では王子が本当は魅力的な人物だってところまで書きました。伊東さん的にはこれで満足だと思いますが、私は最後まで書きたいんです」
妄想を垂れ流しているだけの小説だから、べつに誰にも読まれなくてもかまわない。けれど反響があったなら、それはそれで期待に応えたいと思う。
今回楓は、〝続きを楽しみにしてます〟という読者からのメッセージをはじめてもらった。
「伊東さんが忙しいというのは知ってます。時間がある時でいいので、私に恋人同士のその先をおしえてください。お願いします」
ダメもとだ。
そこまでやる義理はないと言われるのは覚悟の上だがこのチャンスを逃したくはない。切実な思いを込めて彼をじっと見つめると、伊東がたじろいだように瞬きをした。
「ダメですか?」
「ダメでは……」