恋うたかるた
第4章 みだれ染めにし -師走-
「珍しいよね」
「夕方までには帰るから」
同僚との食事会だと偽って出かけることに、娘への後ろめたさを感じながら志織は自宅を出ると駅への道の歩を進めた。
沢田と志織それぞれの住まいがある街は、途中の駅で分岐する私鉄沿線にあったので、その日は沢田がその駅まで車で迎えにきてくれることになっていた。
沢田のマンションから一緒に車に乗ることには躊躇いがあったのである。
15分ほど電車に揺られて着いた乗り換え駅の高架階段を降りると既に沢田が待っていてくれた。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いや、早く着いただけだから」
休みに申し訳ない、と言う沢田に恐縮しながら志織はコインパークに停められたプリウスの助手席に座った。
(助手席に乗るのも何年振りかしら)
シートベルトを締めながらそう思った志織が沢田と眼が合った瞬間、反射的に頭を下げて微笑むと、彼も笑顔を返してくれた。
「銀座へ行きたいので」
「はい、どちらでも」
沢田とドライブすることなど夢にも思っていなかった志織は行先などどこでもよかった。
1時間足らずで銀座松屋の駐車場に車を入れた沢田のあとを半歩遅れて志織は付いて行く。
「赤ちゃんはどちらかわかっているのですか?」
「女の子らしい。 だから余計あなたに相談したくて…」
振り返りながら沢田が応えた。
売場で相談すれば適切なアドバイスがもらえるだろうに、と思っていた志織だったが、自分を誘ってくれたことが何よりもうれしかった。
結局店員の提案を受けながら1時間ほどをかけて祝いの商品を選び終えたふたりは8階のレストランでランチを摂ると、クリスマスシーズンの休日で賑わう銀座の街へ下りた。
「すごい人だね」
そう言ってから雑踏を背にして駐車場へ戻ると沢田が志織の顔を見ながら訊いた。
「浜離宮へ付き合えるか?」
「はい、行ってみたいです」
瑞穂へ伝えた夕方までにはゆっくり余裕があったし、志織に迷う必要はなかった。
ふたりだけの忍びやかなデートが始まろうとしていた師走の午後だった。