恋うたかるた
沢田の振る舞いはどこまでも穏やかで優しかった。
肩に回された手に誘われるようにして沢田に身体をあずけた志織の髪が、綿を包むようにそっと撫でられる。
反対側の手で顎が軽く持ち上げられると、コーヒーと煙草の香りが唇に重なった。
うっすらと開いた唇が沢田の舌先でついばまれているうちに、下唇を甘噛みされて志織は鳥肌が立つような気がした。
少しずつ差し込まれる彼の舌を志織も甘噛みして応える頃には声にならない喉の奥が震えた。
「ああぁ…」
切ない声があふれ、顎が上がる。
「しおり…ちゃん…」
「もう〝ちゃん〟じゃないです…」
「しおり…」
「はい…」
「かわいい…」
「もう… おばさんですから…」
「ぼくには、ずっとしおりちゃんだ…」
耳元で囁かれる沢田の声に志織は震えた。
瑞穂を産んでからは夜の営みもほとんど途絶え、離婚してからの5年を含めるともう10年以上男に触られることなどなかった志織の躰を、忘れていた感覚が何度も電気のように走る。
(もっと愛されたい…)
しかし、肩を抱かれていた手が胸に移り、やがてスカートへ伸びようとしたとき、志織の手が反射的に彼の手を強く押しとどめた。
「だめ…」
「しおり…」
「ごめんなさい… 娘が…」
〝娘〟という言葉を聞いた瞬間、沢田の手が止まった。
「すみません… 試験が終わるまで…」
「そうだったね… ごめんね」
押し寄せてくる感覚に飲み込まれそうになっていた志織は理性でかろうじて抑えられたが、沢田はあくまでも紳士だった。
性急に先を急ぐことなく、それ以上志織を困惑させることはなかった。