恋うたかるた
 
 あわただしく1か月が過ぎ、気がつくと沢田の家を訪問する日曜日になっていた。

 予期せぬ再会に心が乱れたのも数日で収まったが、再訪の日が近づくと志織は落ち着かなかった。


「気をつけていってらっしゃい」

 出がけに瑞穂が勉強机から顔を上げて見送ってくれた。

 駐車場でエンジンをかけようとした彼女は、どこからともなく香ってきた遅い金木犀の香りに気づく。

(もう10月も終わりだし…)

 そんな香りにさえ振り返る余裕がなかったのかなと思った。



 1か月ぶりに訪問した沢田の家は、さらにきちんと整理がされていた。

(何もすることがないわ)

 彼に迎え入れられてダイニングへ向かう間に志織はそう感じた。


「報告書が書ける程度で適当に終わって、あと30分は雑談の相手してくれる?」

 キッチンの横に立ったまま沢田が笑いながらそんなリクエストをしてきた。

「え?」


 なんとかはぐらかすと彼は自室へ姿を消したので作業ははかどったが、前回きれいにした状態とあまり変わりはなく、依頼されていた水まわりのクリーニングは1時間もすると全て終わってしまった。

「失礼します」

「はい、終わったの?」

 沢田が返事とともにすぐ顔を出した。


「きれいにしていらっしゃるので、できれば水回り以外のお掃除とかさせていただきますが…」

 残りの1時間を遊んでいるわけにはいかないので志織は別作業の申し入れをしてみたのだが、沢田は笑いながら首を振った。

「まあいいから、あっちに座ってて」

 先日と同じダイニングの椅子を指差して彼が言うので、素直に志織は手だけ洗わせてもらった。

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