皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
信じられない想いが、熱となって胸の奥に満ちていく。

これはもう、試験なんかじゃない。

私と殿下の、心と心の、真実の対話だ。

「殿下……」

その一言を呟いた時、無情にも私の馬車が到着してしまった。

アレシオ殿下が名残惜しそうに呟く。

「ああ、もう来てしまったか。」

帰らなければいけない。そう分かっているのに、足が動かなかった。

胸の奥が締めつけられるように痛んで、私は気づけば言葉を漏らしていた。

「もう少しだけ……」

その言葉に、殿下の瞳が柔らかく揺れた。次の瞬間、彼は馬車の従者に静かに命じる。

「一時ほど、時間を潰していてくれ。」

「かしこまりました」と従者が頭を下げて馬車を離れていくと、殿下は私の手を引いて、王宮の大玄関脇にある控室へと導いた。

「ここなら、誰にも気づかれない。」

そして、誰もいないその小さな空間で、再び彼は私をそっと、でも強く抱きしめた。
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