皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
――気づいた。この人はきっと、別れを惜しむ殿下の想いを汲み取って、私たちの時間をそっと稼いでくれているのだ。

胸がじんと熱くなった。

思わず唇を噛みしめ、再び殿下の方へと足を向けてしまいそうになる。

「でしたら、一度戻って旦那様にお伝えして参ります。」

従者はどこか嬉しそうにそう言うと、ふと私の方に視線を戻した。

「セレフィーヌ嬢は王宮の馬車でお送りしますので、迎えは必要ございませんよ。」

「……はい。」

私が小さく頷くと、従者は深く頭を下げ、そのまま足早に去っていった。

控室に静寂が戻った瞬間、アレシオ殿下がぽつりと呟いた。

「ドナルド。」

それに応えるように、近衛がにやりと微笑んだ。

「皇太子殿下──“この方”とお思いになったのなら、時間を惜しんではいけません。」

そう言って、彼──ドナルドは軽くウィンクしてみせた。

まるで、全てを見透かしているかのように。
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