半妖の九尾の狐は神巫女を独占中
太ももやお腹をまさぐられ、不快な感触が広がる中、部屋の外が騒がしい事に気が付いた。



その途端、固く閉ざされていたはずの扉が派手な音を立てて外れる。



「悠乃からっ・・・離れろぉっ・・・!!」



優しく鼓膜を刺激する凛とした声と共に、私の上にのしかかっている妖に吸い込まれるように放たれた、青黒い狐火。



それは、私を押し倒していた巨体の妖を吹き飛ばす。



「悠乃、ごめん。来るのが遅くなったね」



妖から解放されて呆気に取られていると、コツコツと私の元に歩み寄ってくる。



紫ががかった長い銀髪、大きなケモ耳、そして、切れ長な瞳・・・息を切らしたままの優しい瞳が、私を捉えていた。




「・・・玖夜様っ・・・」



玖夜様の存在を認識した途端、滲んでいた涙がポロポロとこぼれ落ちてくる。



「あぁ・・・血がこんなに・・・。体も震えてる。怖い思いをさせてしまったね」



玖夜様は恐怖で震えていた私に自分の着ていた上着をかけると、そのまま私を抱き寄せて背中をさする。



ふんわりと香る玖夜様の匂いが少しだけ私を落ち着かせてくれた。



「・・・良くもやってくれたなぁ・・・!!半妖の分際でっ・・・!!」



「・・・たかが部落を治めている小物の分際で、俺の大事な悠乃に傷をつけやがって・・・貴様、それ相応の覚悟はできているんだろうなぁ・・・!!」



1つ目の妖が吹き飛ばされた所から起き上がったのを確認した玖夜様は、私から離れる。



その口調はいつもの穏やかなものではなく、荒々しいものになっていた。



「悠乃。私がいいと言うまで目と耳をふさいでいてくれるかい?」



「は、はい・・・」



私にだけ優しい口調のまま話しかけてくる玖夜様に返事をして目と耳をふさぐ。



すると、耳をふさいでいても聞こえる大きな声と音がしてきた。



すぐにその音は消え、静寂が訪れる。



「悠乃、もういいよ」



優しい言葉が近くから聞こえてきて、私は目を開ける。



そこにはタコのような足に噛みちぎられたような跡が残っていた。



この部屋にタコの料理なんてなかったはずなんだけど・・・。



不思議に思っている時、玖夜様が私の事を抱き上げた。



急な浮遊感に襲われ、驚いてしまう。



「あぁ、驚かせたかな?だけど、ここに長居したくはないだろう?早くここを出よう。しっかり掴まっててね」



「はい」



いつもの優しい口調の玖夜様に私は安心感を覚えながら玖夜様の首に腕を回す。



そして、(やしろ)まで玖夜様に抱えられたまま帰っていった。
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