近くて、遠い、恋心
無惨にも散った初恋
ミンミンと鳴く蝉の声。
グラウンドを焼く太陽の強い光。
吹き込む風は熱く陽炎のように夏の景色を揺らす。
それなのに、なぜ彼の周りだけは澄んでいるのだろうか?
グラウンドを走り抜ける姿は爽やかで、額を流れる汗ですら煌めいて見える。
初恋だった。
あの時の私は、胸の高鳴りも、痛みも、狂おしいほどの悲しみも知らない恋に恋焦がれた、ただの女子高生だった。
グラウンドの外から大勢の女子達と一緒に彼の練習風景を見つめ、時折り合う視線が妄想だとわかっていても心が弾む。ただ彼の姿を見ていられるだけで幸せだった。
そんな私に転機が訪れたのが高校二年生の春、奥手すぎる私を見兼ねた親友の気遣いという名の暴挙により、彼が所属する陸上部へと知らぬ間に入部届けが出されていた。そして、決まった陸上部のマネージャー。始めは慣れない作業に四苦八苦する毎日で彼を目で追うことも出来なかった。でも、部活に慣れ部員との仲が深まるにつれ、彼との距離も縮まっていった。
高校三年生の彼と過ごせる時間はインターハイまで。マネージャーとなり過ごしたこの数ヶ月は、私にとってかけがえのない想い出へと変わった。
目が合い、言葉を交わし、時に怒られ、時に笑い合い、だから欲張りになってしまった。
恋は人を欲張りにする。
見ているだけで満足だった淡い恋は、いつしか彼の恋人になりたいという浅ましい欲へと変わった。
だから、バチが当たったのだろう。
母に連れられ訪れた高級レストラン。通された個室には、目尻に皺を刻み優しく微笑む男性と、今朝挨拶を交わした想い人が私たち親子を待っていた。幸せそうな顔をして義理の父となる男性を紹介する母の言葉も、照れくさそうな顔をしつつも慈愛の目を向け手を差し出す義父の顔も、その隣で言葉を発しない想い人の表情ですら、私の目には映っていなかった。
あの後、どんな食事をしたのか、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。
覚えているのは真っ暗な部屋の中、頬を流れ続ける涙の熱さだけ。
高校二年生の冬、私の初恋は無惨にも散った。
グラウンドを焼く太陽の強い光。
吹き込む風は熱く陽炎のように夏の景色を揺らす。
それなのに、なぜ彼の周りだけは澄んでいるのだろうか?
グラウンドを走り抜ける姿は爽やかで、額を流れる汗ですら煌めいて見える。
初恋だった。
あの時の私は、胸の高鳴りも、痛みも、狂おしいほどの悲しみも知らない恋に恋焦がれた、ただの女子高生だった。
グラウンドの外から大勢の女子達と一緒に彼の練習風景を見つめ、時折り合う視線が妄想だとわかっていても心が弾む。ただ彼の姿を見ていられるだけで幸せだった。
そんな私に転機が訪れたのが高校二年生の春、奥手すぎる私を見兼ねた親友の気遣いという名の暴挙により、彼が所属する陸上部へと知らぬ間に入部届けが出されていた。そして、決まった陸上部のマネージャー。始めは慣れない作業に四苦八苦する毎日で彼を目で追うことも出来なかった。でも、部活に慣れ部員との仲が深まるにつれ、彼との距離も縮まっていった。
高校三年生の彼と過ごせる時間はインターハイまで。マネージャーとなり過ごしたこの数ヶ月は、私にとってかけがえのない想い出へと変わった。
目が合い、言葉を交わし、時に怒られ、時に笑い合い、だから欲張りになってしまった。
恋は人を欲張りにする。
見ているだけで満足だった淡い恋は、いつしか彼の恋人になりたいという浅ましい欲へと変わった。
だから、バチが当たったのだろう。
母に連れられ訪れた高級レストラン。通された個室には、目尻に皺を刻み優しく微笑む男性と、今朝挨拶を交わした想い人が私たち親子を待っていた。幸せそうな顔をして義理の父となる男性を紹介する母の言葉も、照れくさそうな顔をしつつも慈愛の目を向け手を差し出す義父の顔も、その隣で言葉を発しない想い人の表情ですら、私の目には映っていなかった。
あの後、どんな食事をしたのか、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。
覚えているのは真っ暗な部屋の中、頬を流れ続ける涙の熱さだけ。
高校二年生の冬、私の初恋は無惨にも散った。
< 1 / 32 >