近くて、遠い、恋心
忘れるにはちょうどいい距離感
私の暴挙に佐々木さんは理由も聞かず、手を引いて歩いてくれた。その手の温かさに何度も泣きそうになった。いいえ、泣いていたのだと思う。でも彼は何も聞かず隣を歩き続けてくれた。その優しさに救われる。
あの女性と理人との関係はわからない。でも、とても親しそうに見えた。少なくとも、突然店を飛び出した理人に鞄を届けに追いかけてくるほどには親しい仲なのだろう。
落ち着いていて、色気もある大人の女性。彼女が理人の理想なのだろうか。そうなら、逆立ちしたって敵わない。
理人に甘やかされ、"妹"という立場に甘んじることしか出来ない私では、理人の理想にはほど遠い。
結局、昔も今も私は理人の"妹"にしかなれないのだ。
「カフェ・オ・レにしたけど良かった?」
スッと出されたペットボトルを受け取り頷けば、ベンチの隣に佐々木さんが座った。蓋を開け一口飲んだカフェ・オ・レのほろ苦い甘味が散り散りに揺れる心を少し落ち着けてくれる。
「さっきのって、お兄さんだよね?」
「はい。失礼な事を言って申し訳ありませんでした」
「いいや、俺も挑発的なこと言ったし、お互いさまっていうか、こちらこそごめん」
スッと頭を下げる佐々木さんに面食らう。
明らかに非があるのは兄の方で、佐々木さんは絡まれた被害者だ。怒ることはあっても、謝られる理由がわからない。
「いいえ、謝らないでください。明らかに悪いのは兄ですから。それに、結局巻き込んでしまって、どうお詫びしてよいやら」
立ち上がり何度も頭を下げる私に、佐々木さんはどこまでも優しかった。
「気にしなくていいよ。兄妹、大人になっても喧嘩することはある。ただ、ちょっと稲垣さんのお兄さんは、妹に過干渉すぎるかなぁとは思うけどね」
「それは……、私たちの兄妹関係が特殊だからだと思います。私と兄に血の繋がりはありませんし、だからこそ責任感が強いというか、兄らしくいなきゃって思っているのかもしれません」
「本当にそうかな? 俺の目にはそうは見えなかった」
「えっ? どういう意味……」
「普通の兄妹にしては、君を見るお兄さんの目が尋常じゃなかったからね。男の勘ってやつかな。あの目は、大切な女性を間男に奪われまいと威嚇する男の目だよ」
佐々木さんの言葉がにわかには信じがたい。彼の言葉が本当なら理人は佐々木さんに嫉妬していたことになる。まるで、理人の好きな人が私だとでも言われているような錯覚に陥り、頭を振る。
冷静になれ。
理人が私のことを好きだなんて有り得ない。
あの女性と理人との関係はわからない。でも、とても親しそうに見えた。少なくとも、突然店を飛び出した理人に鞄を届けに追いかけてくるほどには親しい仲なのだろう。
落ち着いていて、色気もある大人の女性。彼女が理人の理想なのだろうか。そうなら、逆立ちしたって敵わない。
理人に甘やかされ、"妹"という立場に甘んじることしか出来ない私では、理人の理想にはほど遠い。
結局、昔も今も私は理人の"妹"にしかなれないのだ。
「カフェ・オ・レにしたけど良かった?」
スッと出されたペットボトルを受け取り頷けば、ベンチの隣に佐々木さんが座った。蓋を開け一口飲んだカフェ・オ・レのほろ苦い甘味が散り散りに揺れる心を少し落ち着けてくれる。
「さっきのって、お兄さんだよね?」
「はい。失礼な事を言って申し訳ありませんでした」
「いいや、俺も挑発的なこと言ったし、お互いさまっていうか、こちらこそごめん」
スッと頭を下げる佐々木さんに面食らう。
明らかに非があるのは兄の方で、佐々木さんは絡まれた被害者だ。怒ることはあっても、謝られる理由がわからない。
「いいえ、謝らないでください。明らかに悪いのは兄ですから。それに、結局巻き込んでしまって、どうお詫びしてよいやら」
立ち上がり何度も頭を下げる私に、佐々木さんはどこまでも優しかった。
「気にしなくていいよ。兄妹、大人になっても喧嘩することはある。ただ、ちょっと稲垣さんのお兄さんは、妹に過干渉すぎるかなぁとは思うけどね」
「それは……、私たちの兄妹関係が特殊だからだと思います。私と兄に血の繋がりはありませんし、だからこそ責任感が強いというか、兄らしくいなきゃって思っているのかもしれません」
「本当にそうかな? 俺の目にはそうは見えなかった」
「えっ? どういう意味……」
「普通の兄妹にしては、君を見るお兄さんの目が尋常じゃなかったからね。男の勘ってやつかな。あの目は、大切な女性を間男に奪われまいと威嚇する男の目だよ」
佐々木さんの言葉がにわかには信じがたい。彼の言葉が本当なら理人は佐々木さんに嫉妬していたことになる。まるで、理人の好きな人が私だとでも言われているような錯覚に陥り、頭を振る。
冷静になれ。
理人が私のことを好きだなんて有り得ない。