近くて、遠い、恋心
 理人の言葉に二の句が継げない。
 兄だと思ってないって……、何よ。今まで私がどんな気持ちで理人を兄だと思い込もうと必死になって来たか。それでも想いを断ち切れなくて、でも恋心を伝えることも出来なくて、想いを殺すことしか出来ない日々の中で、歪ながらも家族を壊さないために必死に"妹"を演じてきた。
 理人がいなければ、二つの家族はとっくの昔にバラバラになっていたのもわかる。歪でも今まで家族としてやって来られたのは理人が必死に繋ぎ止めていてくれたからだとわかっている。だからこそ理人への想いを封印し、彼の望む"妹"を演じてきた。そんな私の想いまで理人は踏みにじるの?
 
 義兄へと抱えた恋心。"妹"という立場に甘んじることで抑えこんでいた禁忌の想いが心からあふれ出す。

 理人の無慈悲な一言に怒りが湧き上がり、ぶるぶると握った拳が震える。もう抑えられなかった。怒りで昂った気持ちのまま、理人に本心とは裏腹の言葉をぶつけていた。

「えぇ、お兄ちゃんを"兄"だと思ったことなんてない! 良い大人がそろって家族ごっこ? 馬鹿みたい。所詮、私達は赤の他人なのよ。それなのに、家族だからって連れ出されていい迷惑よ!! 」
「夏菜……、お前そんな風に思っていたのか」

 どうして理人が傷ついた顔をするのよ! 
 心の奥底に閉じ込めた恋心を無理矢理引きずり出し私を傷つけたのは理人なのに、なんでそんな苦しそうに顔をゆがめるのよ!!

 理人に傷つけられたのは私なのに、まるで私が理人を傷つけているかのような錯覚に頭が混乱する。罪悪感に支配され心がズキズキと痛み出し、私を追いつめる。あんなこと言わなければよかったと、今さら後悔したところで、一度口から出た言葉を無かったことには出来ない。

 理人が必死に築き上げてきた"家族"を私が壊した。きっと、理人は私を許さない。
 もう、"妹"っていう免罪符さら失ってしまうのだ。

 頭を支配する絶望感が心を黒く染めていく。

 理人への恋心が叶うことはない。
 妹という立場まで失った。
 わたしは――――、すべてを失ったんだ。

 心が壊れていく。
 すべてを失った私は"妹"という仮面を捨てた。
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