近くて、遠い、恋心

想いの行方

 約熱の太陽の下、赤茶色のトラックと芝のグラウンドが目に鮮やかに映る。年に一度の大舞台に、緊張を顔に浮かべる選手達。そんな彼らに声援を贈る仲間。己の限界に挑戦し、仲間と切磋琢磨し、掴み取った大舞台インターハイへと毎年通ってしまうのは、切ないほどに恋しい想い出があるからだろうか。

 全国高等学校総合体育大会陸上競技大会、通称インターハイ陸上。毎年蝉の鳴く頃に行われるこの大会こそ、理人との想い出そのものだった。
 進学校に通う宿命か、部活をしている者たちの引退は早い。大学受験に向け、三年生の夏休み前に引退する者がほとんどだ。夏休み中に行われるインターハイに出場する三年生はほぼいない。そんな中、理人はインターハイ予選へと出場するため部活に残った。そして、県大会を突破し、見事、全国大会へ出場した。結果は、一次予選敗退。だけど、理人の顔には晴れやかな笑みが広がっていた。

 この場所に来ると、あの時の理人の笑顔を思い出す。
 陸上部の先輩後輩として理人と接したのは、ほんの数ヶ月。だけど、あの数ヶ月が私の心の支えだった。告げられない想いを抱え、妹を演じることしか出来ない私への癒しだった。

「もう、ここに来るのは最後にしなきゃね……」

 つぶやいた言葉が、雲ひとつない青空に吸い込まれ消えていく。
 三階席には人もまばらだ。ぼんやりと、トラックを駆ける数名の選手を眺めながら意識は遠い昔へと飛んでいく。
 トラックを駆ける理人に恋をした。
 一周、二周、三周……、前だけを見据え走る姿は牡鹿のようで、その美しさに心を奪われた。

 でも、この想いは捨てなきゃ。

 繋がりを断ち切った日から理人とは話していない。結局、彼にとって私は妹にすらなれない厄介な存在だった。

 来年の春からアメリカか……
 佐々木さんへは、マークス氏の仕事を引き受けると連絡をした。
 家を出て、理人と離れ、海外でがむしゃらに働いたら、いつか忘れられるのかな。

 ズキっと疼いた胸の痛みに大きなため息を吐き出し立ち上がった時、背後から声をかけられた。
< 18 / 32 >

この作品をシェア

pagetop