近くて、遠い、恋心

執着の行き着く先

「海外へ行くって……、絶対にダメよ!!」

 ダイニングテーブルをバンっと叩き立ち上がった母をどこか冷めた目で見つめている自分がいる。初めて家を出たいと母に告げた時は、こんな冷静な気持ちではいられなかった。否定の言葉しか言わない母にイライラが募り、大人の女性として信用してもくれないのかと悲しみだけが残った。結局、母にとって私は一人では生きていけない子供のままなのかと、あきらめにも似た悲しみだけが募っていったように思う。
 でも、今はヒステリックに叫ぶ母を目の前にしても心が凪いでいる。それは隣に心強い味方――、理人がいるからだろう。

「お母さん、何がダメなの? わたし、もう二十六歳よ。親から庇護されないと生きていけない子供じゃない」
「二十六歳なんて、まだ子供よ。しかも、日本ならまだしも海外なんて、何かあってからじゃ遅いのよ!!」
「じゃあ、日本だったら家を出ることを許してくれたの? そんなことないよね。だって、お母さんは就職を期に一人暮らしをしたいって言った私の願いを拒絶したじゃない」
「それは……、あの時は、まだ幼かったじゃない」
「ねぇ、お母さん。幼い、幼いって、お母さんは私をいくつだと思っているの? 幼稚園児、小学生、それともお父さんと再婚した時の高校生?」
「えっ……」

 立ち上がり激昂していた母の目が見開かれる。きっと今まで考えもしなかったのだろう。母はずっと、過去の"わたし"しか見ていない。母の過干渉は、祖母に任せきりで放置し続けた娘への贖罪のつもりなのかもしれない。しかし、それはただの自己満足でしかない。
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