売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
恥ずかしい。
痛い。
怖い。

でもそれ以上に、胸を貫いたのは──心の底からの、裏切りだった。

あの優しかった手。

私を抱きしめてくれた夜。

「綺麗な女になるな」と笑ってくれた言葉。

全部、全部──嘘だったの……?

男たちの目の色が変わるのがわかった。

さっきまで冷やかし混じりだった視線が、じっとりと、欲望の熱を孕み始めていた。

「もうひと声、欲しいですね。」

叔父の言葉に、会場にざわりと小さな波が立つ。

──私は、売られる。

その現実が、全身を凍らせた。

今までの恩。笑顔。やさしい言葉。全部、私を“高く売るための道具”だったなんて。

涙も、声も、出なかった。

その時だった。

中央に座っていた、金の指輪をいくつもはめた若い男が、ゆっくりと手を上げた。

「……900出そう。」

叔父の目が鋭く光り、ニヤリと口角を上げる。

「おお、これは……では旦那様に決まりで──」

そう言いかけたその瞬間。

空気を切り裂くように、別の男が手を上げた。
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