売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
「……行くな……」

かすれた声が、胸に響いた。

「……君に、いてほしい……」

その言葉に、思わず涙が込み上げる。

“抱かれる”ことでしか自分の価値を感じられなかった私に、初めてクライブが「必要だ」と言ってくれた。

そして私はそっとクライブを抱きかかえ、寝室のベッドに寝かせた。

苦しそうだった表情も、ようやく穏やかになり、浅く寝息を立てている。

その額に触れると、熱は少し引いていた。

──よかった。これでもう、安心。

立ち上がろうと腰を浮かせた瞬間、手首を掴まれた。

「行かないでくれ……」

その声に、胸がきゅっとなった。

こんな風に、彼が私を必要としてくれる日が来るなんて。

私はそっと頷いて、微笑みかけた。

「クライブ……ここにいるわ。ずっと」

だが、その時だった。

「……クロエ……よかった。どこにも行かないでくれ……」

──クロエ。

その名前を聞いた瞬間、思考が止まった。
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